2005 Fiscal Year Annual Research Report
推論的な言語理解の概念的枠組みを提示する学際的理論の構築
Project/Area Number |
04J09907
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菅原 由起子 (川口 由起子) 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 日常言語 / 会話分析 / グライス理論 / 会話の含み |
Research Abstract |
前年度に引き続き、日常言語における推論的言語理解において重要な役割を果たしている合理性の概念について研究を進め、グライス理論における協調原理が日常言語理解における合理性に深い関連があること、および、協調原理が十分明確な形で定義されていないことを指摘した。そのうえで、日常言語で聞き手によって行われる4つの理解の段階を整理し、協調原理が2つの段階で役割を果たしていることを示し、明示されていなかった協調原理の隠れた役割の特徴づけを行った。同時に、従来扱われてこなかった聞き手による誤解および理解の失敗について、グライスの会話の含みの理論に基づいて特徴づけを行った。これらの成果を、日本科学哲学会第38回大会にて発表した。一方、ポルトガルで行われた自然言語にかんする学際的なワークショップに参加し、今年度までの本研究における理論的な帰結を実際の会話データを用いて検証するための情報収集を行った。ここで得た欧米における会話データ研究の知見に基づき、既存の日本語会話データを収集・分析し、以下の点が明らかとなった。(1)日本語での2者以上による(特定の課題や状況を設定しない)自然対話では、会話の含みはあまり観察されない。とくに、欧米の言語において従来主な研究対象とされてきたグライス的な会話の含みは、日本語の自然会話で観察されることはまれである。(2)しかし、グライス的な会話の含みは、日本語話者にとって理解不可能なほど非日常的ではない。外交的交渉やいわゆる「お笑い」の場面においては、グライス的な会話の含みの典型例が数例観察された。以上の2点から、会話の含みが日本語話者にとって(データにあらわれにくいものの)理解可能であることを実験的に示す必要があることがわかった。現在はこの点を示すための実験を計画中であり、その実験結果をふまえて日常言語における推論的言語理解の一般理論を構築する予定である。
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