Research Abstract |
妄想は統合失調症の症状であり,異常な信念である.最新の研究から,妄想に似た信念(以下,妄想的観念)は健常者でもよく見られることが分かっている.しかし,妄想と妄想的観念の違いが明らかになっていない.また,妄想が発生するメカニズムや介入法が明らかになっていない.そこで本研究では以下の3点を検討した.(1)妄想と妄想的観念の違いを,調査法により明らかにする,(2)妄想を生み出す認知のメカニズムを明らかにし,実験法により検証する,(3)妄想への介入効果研究を行う.妄想の発生メカニズムを明らかにし,介入へ応用することで,精神病理学的意義ばかりではなく,治療や予防に直接生かせる研究課題である.本年度では,研究課題のうち(1)と(2)を実施した. (1)妄想と妄想的観念の違いを確認し,妄想の発生メカニズムを明らかにするために,統合失調症患者30名と健常大学生604名を対象に質問紙調査を行った.調査実施に際しては,インフォームドコンセントをとり,調査についての説明と参加への同意を確認した.調査の結果,統合失調症患者のほうが,妄想的観念の苦痛度と心的占有度が強いことが分かった.この研究を記載した論文は,臨床精神医学に掲載された. (2)妄想を持つ統合失調症患者は,ベイズ推論課題において,少ない情報量で高い確信度を持ち,性急に結論を下すバイアスを持つことが分かっている.妄想を生み出す認知のメカニズムを明らかにするため,慢性期の統合失調症患者12名と健常者15名を対象にベイズ推論課題を行った.その結果,慢性期の統合失調症患者は,少ない情報で結論を下すことが分かった.しかし,確信度は低いままだった.この研究を記載した論文は,精神医学に掲載予定である.
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