2005 Fiscal Year Annual Research Report
8世紀から12世紀までのイスラーム思想におけるアレゴリー史の構築
Project/Area Number |
04J11225
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森下 信子 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | アレゴリー / 象徴 / 文学 / 哲学 / 神秘主義 / 物語 / イスラム / 中世 |
Research Abstract |
前年に続き、中世イスラーム世界のアレゴリー研究を、構造主義的方法論を部分的に修正しながら行ってきた。アレゴリー史という研究の特徴として、今年度は一つ一つのテクストを綿密に分析するのではなく、まず、同類型のアレゴリーを収集し、そこに見られる語りの共通点を分析する作業を優先した。該当期のイスラム世界のアレゴリーの多くは、全くの独創ではなく、何らか先行する物語を部分的に踏襲し、そこに自らの思想を盛り込む形で成立している。例えば10世紀の『ヤクザーンの子ハイイ物語』は、ヘレニズム時代の『ポイマンドレース』や『ケベースの絵馬』と共通する物語枠の中に展開する。10世紀とヘレニズム期を結びつける文献は未発掘であるが、大英図書館にアラビア語版のヘルメス・トリスメギストスの作品が存在するので(Badawiによる校訂版が存在するという情報があったが、Badawiの書に該当箇所は見当たらない為)、写本を取り寄せる予定である。また、鳥物語の系列では、多くは『カリーラとディムナ』の語りを起源として(イスラム圏の文学内で時代的にさらに遡れる可能性もある)、異なる挿話の一部から様々な派生が見られることが分かった。さらに、アレゴリー内で各種の鳥には、次第にいくつかの決まった役割が与えられ、それが定着した形で受け継がれている。例えば、アレゴリー外の物語で悪役として登場することさえあるシーモルグは、顕著な例として、ガザーリー系のアレゴリー内では、全て王すなわち神の喩えとして登場する等である。これに基づいて、5月(日本中東学会 於大阪)、8月(ICAS4 於上海)、10月(オリエント学会 於九州)で、それぞれ学会発表を行った。今年度までの研究手法では、物語の個別性と、如何なる系列にも属さない作品が無視される傾向があるため、来年度は、個々の作品の成立過程にも配慮しつつ、より綿密な研究を進めていくと共に、成果を論文として発表していく予定である。
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