2004 Fiscal Year Annual Research Report
8世紀から12世紀までのイスラーム思想におけるアレゴリー史の構築
Project/Area Number |
04J11225
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森下 信子 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | アレゴリー / 象徴 / 文学 / 哲学 / 神秘主義 / 物語 / イスラム / 中世 |
Research Abstract |
中世キリスト教思想と同様、中世イスラーム思想においてもアレゴリー表現は、思想伝達手段として重要な役割を担っている。先行研究では主に、象徴の解読と思想家がアレゴリー表現を用いる動機について議論が行われてきたが、それは2つに大別できる。(1)不可視的実在の可視的表現-可視的なものを不可視的世界の射影と捉える新プラトン主義的な価値観において、超越的実在が想像機能によって把握される場合、その認識が具体的な像の形を取るという立場。この場合、アレゴリーに託された隠喩は、比喩よりも実在的な意味において可知界における不可知界そのものの姿であり、個人の霊魂による不可知界への直接参与を促していると考えられる。(2)教育目的-思想家が、哲学的思惟に耐える能力のない者に対して実在世界を具体的事物によって解説する、もしくは、哲学的訓練を必要とする者に対し隠喩の解読を要請する、という立場。この場合、隠喩は単に著者の文才を特徴づけるものと考えられる。先行研究における限界は、構造主義的立場から指摘されるように、明言されない限り読者が著者の精神的動機を知ることが究極的に不可能であり、この問題に解答を与える試みは、最終的に研究者の主観反映に陥る点にある。それゆえ本研究では、複数の作品の言語・物語構造を共時・通時的に比較分析する方法論により、象徴作品に培われた伝統の特質を抽出するという、より客観性の高い成果を目指している。現在、イブン・シーナー(980-1037)のアレゴリーを特徴づける物語構造を手がかりに、ペルシャ/アラブ文学・哲学・神秘主義における複数の象徴的作品を順に調査中であるが、成果の一つとして、同時代に構造的に相似した類型のアレゴリーの存在を確認した。これは、イブン・ミスカワイヒによるアラビア語版が現存する、ギリシャの寓意「ケベースの絵馬」であるが、詳細は、現在5月の学会発表に向けて準備中である。
|