Research Abstract |
約24000年前に発生した浅間火山の大規模山体崩壊イベントに着目し,その流域の地形発達に与える影響を検討した.崩壊によって発生した大規模な土砂が達した利根川・吾妻川合流点付近を対象とし,河川地形発達史を考察した.その結果,最終氷期最盛期以降の利根川本流の河床上下変動は,完新世に至るまで突発的土砂供給イベントの影響を強く受けていたことが認められた.本研究によって,流域の長期的な地形発達におけるイベントの重要性が実証された. また,大規模山体崩壊に伴う土砂移動の実態の一端を明らかにした.浅間火山からの距離が異なる中之条盆地から関東平野北西縁に至る各所において,イベント堆積物とその下位層であるイベント前の河床堆積物をそれぞれ系統的に採取し,蛍光X線分析によってそれらの元素組成を調べた.まず,堆積物の岩相を判断材料に加えることで,土砂移動を岩屑なだれとみなしうることが指摘された.そして,岩屑なだれ堆積物の最下部において,流下に伴って強いせん断応力が働き,岩屑なだれ堆積物と河床堆積物とが顕著に混合していたと考えられる地球化学的特性が見出された.すなわち,岩屑なだれは,ビンガム流体であるプラグフローとしての性質を有していたことが示された. さらに,岩屑なだれが約100kmもの最大流走距離を有する理由を流走域の地形学的特性に求めた.その結果,吾妻川河谷に流入した岩屑なだれは,急峻な谷地形に制約されたことによって,流動性を損なうことなく関東平野北西縁に達したと推察された(Yoshida and Sugai, in review). 最後に,大規模山体崩壊イベントの体積規模の見積もりを,特に崩壊土砂量と堆積土砂量との収支に着目して試みた.まず,崩壊土砂量は4km^3,堆積土砂量は6km^3と推定された.そして,両者の差分は主として,流走時における異質岩塊のとりこみや,「ほぐれ」による増量効果によって説明された(Yoshida and Sugai, in review).
|