Research Abstract |
酸化リチウム(Li_2O)中での水素同位体挙動を,照射欠陥の影響に着目し,赤外吸収分光実験,昇温脱離実験,量子化学計算を用いて調べた. 赤外吸収分光実験では,イオン照射(3keV D_2^+)により導入された重水素が形成するO-D伸縮振動ピークの消長を,イオン照射下でその場観察した.照射により導入された重水素は,主に,V_<OD>あるいはLiOD相を形成することで安定化し,Li_2O中に存在することが明らかになった.照射後の加熱実験では,V_<OD>の集合に伴うLiOD相の成長が観察された.V_<OD>のLiOD相への変化が,V_<OD>の濃度に対して2次的に進むことから,LiOD相によるV_<OD>の吸収のみでなく,比較的少ない数のV_<OD>同士の直接的な集合も,LiOD相形成反応に有意に寄与していることが示唆された. 昇温脱離実験では,熱吸収あるいはイオン照射(300keV D^+)によって重水素を導入されたLi_2O単結晶試料を用いて実験を行い,水素同位体放出挙動に照射欠陥が与える影響を調べた.熱吸収試料では観察されなかった900K付近でのD_2放出が,イオン照射試料では確認された.既往研究,量子化学計算の結果との比較から,このD_2放出は,F^O centerに捕獲されていた重水素の脱捕獲に起因していることが示唆された. 量子化学計算では,密度汎関数法(DFT)を用いて,F centersの水素捕獲力を評価した.水素同位体はF centers近傍では,F centersに捕獲されてH^-に還元された場合,あるいはF centersに隣接する酸素とOH^-を形成した場合に,局所的に安定であることがわかった.2点の相対的な安定性は,F centersの帯電状態に強く依存し,F^<2+>ではOH^-を形成した場合,F^OではH^-に還元された場合に,より安定であることが明らかとなった.
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