1993 Fiscal Year Annual Research Report
高圧化学的手法を用いた多段階電子移動反応の反応機構の研究
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05453042
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高木 秀夫 名古屋大学, 理学部, 助教授 (70242807)
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Keywords | 高圧力 / 電子移動 / 電気化学 / 反応機構 |
Research Abstract |
L-アスコルビン酸は、その分析化学的重要性の他に生体における生理活性においても興味深い化合物である。L-アスコルビン酸の酸化反応は通常2電子移動で起こる。これは、アスコルビン酸が酸化される際には1電子移動によりラジカルを生じ、さらにこの反応性の高いラジカルが強い還元剤として働くためである。L-アスコルビン酸の第一段階めのラジカル生成の標準酸化還元電位は、酸濃度に依存すし、中性では0.76V程度である。それにもかかわらずアスコルビン酸が強い還元作用を有するのは、生じたアスコルビン酸ラジカルの反応性がきわめて高いためである。 L-アスコルビン酸の還元反応の機構についての研究ではアスコルビン酸ラジカルの構造に言及するものは少なく、電子移動に伴うアスコルビン酸ラジカルの構造を含めた生成過程を詳細に検討することは非常に重要である。本年度は、酸性水溶液中におけるヘキサシアノ鉄(III)、ルテニウム(III)、オスミウム(III)錯体とL-アスコルビン酸の反応について、高圧化学的手法を用いて研究した。L-アスコルビン酸の高圧酸化還元挙動の解明には、酸解離平衡に伴う反応体積の測定が不可欠である。本研究では、本年度補助金により購入したディラトメトリーおよび高圧電気化学装置を用いてL-アスコルビン酸の酸解離に伴う反応体積変化が+9.6cm^3mol^<-1>であること、並びにヘキサシアノ鉄(III)鉄イオンの酸化還元平衡の体積変化が-35cm^3mol^<-1>であることを決定した。また、本年度補助金で購入した高圧ストップトフロー装置を用いて、上記3種類の金属錯体を用いたL-アスコルビン酸の酸化反応速度定数の測定を行った。その結果得られた反応の活性化体積(-15cm^3mol^<-1>)から、マーカス理論にもとづき、L-アスコルビン酸イオンとアスコルビン酸ラジカルの酸化還元平衡に対応する反応体積が-8cm^3mol^<-1>と初めて決定された。断熱的外圏反応に伴う電縮効果の減少を考慮した場合に、ここで得られたL-アスコルビン酸イオンとアスコルビン酸ラジカルの電子移動平衡に対応する反応体積は大きな正の値を示すはずであり、反応が断熱的に進行していないことを示している。従って、反応の律速段階において、アスコルビン酸イオンは閉環反応を伴っている可能性が強く示唆される。今年度得られた上記の成果は、水溶液中におけるL-アスコルビン酸の反応性に関するこれまでの通説を覆すものであり、その価値はきわめて高く、現在上記結果について投稿中である。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] Michael R.Grace: "A Cross Relation in Volumes of Activation for Electron Transfer Reactions" Inorganic Chemistry. (in press.). (1994)
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[Publications] Nobuyoshi Kagayama: "Mechanistic Study on the Reaction of L-Ascorbic Acid with Hexacyanometallate(III)of Iron(III),Ruthenium(III)and Osmium(III)Ions in Aqueous Acidic Solution at Elevated Pressures" Inorganic Chemistry. (in press.). (1994)