2005 Fiscal Year Annual Research Report
海洋生物の生活史進化の理論的研究:空間的・時間的に大きく変化する環境への適応
Project/Area Number |
05J06253
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
入江 貴博 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 最適生活史 / 数理モデル / 体サイズ / 地理的変異 / 環境変動 / 表現型可塑性 / 飼育実験 / 野外調査 |
Research Abstract |
本研究の目的は、時間的に大きく変動し、また空間的に著しく不均一な生息地の環境に対する海洋生物の適応を、数理モデリング・野外調査・飼育実験によって研究することである。本年度は特に環境の季節的・確率的変動に対する適応を研究する上での第一歩として、沖縄本島で野外調査と飼育実験を実施し、タカラガイの生活史に関するデータを収集した。その結果、古くから知られていたCypraea annulusハナビラダカラの貝殻形態の空間変異は、成長期以後の形態依存的な選択の結果として形成されるのではなく、成長期が終了した時点ですでに確立することが判明し、このことから形態の違いは環境の違いに基づく表現型可塑性の結果である可能性が濃厚となった。夏期の高温で大量斃死が生じる潮間帯上部の個体群では、成長後の体サイズが小さく、殻が薄いというデータを得た。すでに発表している数理モデルに基づき最適生活史を計算した結果、夏期の高い死亡率はこれらの形態の空間変異を有利にする選択圧として説明できることが判明した。夏期に大量斃死の起こる環境では、体サイズの増大と殻の厚化をあきらめて早期に繁殖を開始する戦略が有利となる。しかしながら、成長期は晩秋から春にかけてであるため、タカラガイは自分の生息地が夏期に温度の上がる場所であるかどうかをあらかじめ予測しなければならない。タカラガイが環境を予測するために用いているキュー(環境シグナル)が何であるかを明らかにするために、異なった条件下でハナビラダカラを稚貝から育てる飼育実験を行った。その結果、捕食者の臭いを加えたり、同種個体密度を上げて飼育した場合に最終体サイズが小さくなることが判明した。この結果は、潮間帯上部ほど干潮時のタイドプール内の臭い物質濃度が高くなるため、タカラガイが生物由来の臭いを環境予測のためのキューとして用いているという仮説に整合するものである。
|
Research Products
(1 results)