2005 Fiscal Year Annual Research Report
初期ラッセルと周辺の論理哲学・形而上学に関する意味理論的・哲学史的観点からの研究
Project/Area Number |
05J06334
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
森 建 首都大学東京, 大学院・人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 哲学 / 論理哲学 / 形而上学 / 意味理論 / 哲学史 |
Research Abstract |
これまでのラッセル研究が解明してきたとは言い難い多くの事柄が次々明らかになりつつある。いまのところ具体的なpublicationとして提出されたものはないが、広範なテキストの精査と多面的な考究が要求される本研究の性質上やむを得ざるものと思われる。 報告者を驚かせた本研究からの新たな知見としては、とりわけ英国観念論内部におけるLogikの哲学(報告者の造語:ボルツァーノに端を発する、判断・命題等sentence typeの対象の分析によって考察を推進する哲学の学統、と仮におく)の浸透ぶりである。以前から言われつくした英国観念論とラッセルら新実在論の対比には、例えば真理観の違いであるとか、一元論/多元論の対立であるとか、とかく大まかな描像に終始したものが多い。だが例えば英国観念論の雄ブラッドリーの主著論理の諸原理が含む、『論理』の問題圏から観念・判断生成の問題を切り離す問題設定はボルツァーノに遡るものであり、また観念の記号的側面を強調する(判断の分析による世界の分析への道を確保するために)仕方はブレンターノに発する認識対象の志向的内在の概念をほぼそっくりなぞっているとさえ言うことができ、また判断の統合性unityを問題化する態度は後年の初期ラッセルが命題に対してするのと同様の問題意識に根ざす。中欧諸論考の多くが、グリーンやボザンケットの手で英訳されたロッツェ(ブレンターノの同僚でもあった)を経由したことは想像に難くないが、こうした文脈を踏まえるならば、ラッセルを取り巻いた環境は改めて面目を新たにする必要がある。 ここで興味深いのはブラッドリーの直接の批判者であるムーアの役割である。上記の諸点から窺われるべきブラッドリーの像は、「英国の伝統的な概念であるideaをLogikの哲学の中に活かそうと試みた哲学者」である。その際のideaは志向性の媒介者として置かれる。この点、ブレンターノの提起を受けて志向性概念を敷衍したヘフラー、トヴァルドフスキーらの置いた「内容Inhalt」に対応する。そしてそれらの上にマイノンクが「内容」について語ることの不毛さを説いて専ら対象に関心を向ける理を論じたのであるが、初期ラッセル、ムーアとこのマイノンクが多く見解を共有したのはこの点を巡っていた。つまり、英国・独語圏の二筋の伝統各々において極めて親近性の高い道行があった、という「Logikの哲学」のストーリを描くことには十分な自然さがある。以上に述べた見通しは本研究にとって準備的整理の一部でしかないが、継続による研究の多産性が示されたものと期待する。
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