2006 Fiscal Year Annual Research Report
人工遺伝子ネットワークによる細胞内ダイナミクスの包括的解析
Project/Area Number |
05J12029
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前多 裕介 The University of Tokyo, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 遺伝子ネットワーク / システム生物学 / 細胞運動 / 細胞膜 / 発生・分化 / 揺らぎ |
Research Abstract |
分子生物学の発展により遺伝子やタンパク質など多くの要素が同定され、生命現象の分子レベルでの理解が進んだ。しかし生命現象の本質は分子という部品ではなく、分子により構築されたシステムの構造とふるまいにある。したがって生命現象の本質的理解には要素間の相互作用の記述によるシステムレベルでの研究が必要不可欠である。 近年、分子間の制御様式には特徴的なパターンが存在し、その機能特性(振動など)が生命機能(細胞周期など)と対応しうることが明らかになってきた(U. Alon, Nat. Rev. Genet. 8,450-461,2007)。申請者は正のフィードバック制御が分化を司る遺伝子回路に頻出することに着目し、分化を支える遺伝子回路の特性の解明を試みた。遺伝子発現ダイナミクスの定量的測定と数理モデルの統合的解析の結果、正のフィードバック制御は遺伝子発現にヒステリシスという記憶効果を与え、一旦発現した状態を維持し続ける特性を備えることが示された。ヒステリシスを備えたネットワーク設計が細胞運命の決定機構を担うための設計原理であると考えられる。 また、細胞運動は発生段階において重要な生体反応の基本過程である。これまでに関連分子は数多く同定されたものの「どのようにして細胞は動くか」という動作原理は明らかではない。その解明には細胞膜ダイナミクスと細胞運動の定量的解析が必要不可欠であると考え、自発運動中の単一細胞性粘菌を用いて細胞膜ダイナミクスと重心運動との相関について定量的解析を行った。一見するとランダムにしか見えない膜ダイナミクス。しかし定量的解析の結果、揺らぎの背後に伸張、回転、振動という3つの規則的な変形パターンが存在することを見出した。さらに、これらのパターンはPl3-kinaseとPTENに制御されること、そして2つの制御因子が作り出す極性によって膜パターンは運動方向をバイアスすることをも見出した。
|