2008 Fiscal Year Annual Research Report
肝細胞癌におけるTGF-βシグナルに対するDIP1の機能の解明
Project/Area Number |
07J01397
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
生島 弘彬 The University of Tokyo, 大学院・医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | DIP1 / HHM / Olig1 / synexpression group / 肝細胞癌 / 膠芽腫 / TGF-β / Smad |
Research Abstract |
現在、解析を進めているDIP1(D-type cyclin interacting-protein 1,別名HHM;Human Homolog of Maternal Id-like molecule)は、これまでに悪性腫瘍発生との関与が複数報告されているが、Rbのリン酸化を阻害し、細胞周期がS phaseに入ることを阻害するという報告(Journal of Biological Chemistry 275,20942-20948,2000)など、細胞周期を負に制御するという報告がある一方で、ヒトの肝細胞癌の初期段階からHHMの発現が著明に増加しているという報告(Gastroenterology 128,1369-1380,2005)など、発癌を正に制御していることを示唆する報告も多数なされている。しかしながら、このようなHHMの悪性腫瘍に対する二面性が引き起こされる機序については、これまで全く報告がなく、本研究者らは、癌の発生及び転移に大きく関与していると考えられているTransforming Growth Factorβ(TGF-β)のシグナルに対してHHMが及ぼす影響を検討し、論文としてその結果をまとめた(Ikushima et al.,EMBO J.2008;27:2955-65)。 HHMは、本研究者らがこれまで出したデータから、TGF-βの生理学的・病理学的作用に対して、細胞応答特異的な抑制作用を示すことが明らかになった。さらにその細胞応答特異的なTGF-βシグナルの抑制メカニズムを探る中で、このHHMが、特定のSmad-cofactor complexによって形成される一部のsynexpression groupのみを標的とすることで、TGF-βシグナルを抑制していることを明らかにした。TGF-βシグナルの制御因子について、このように特定の細胞応答のみを制御し得るような因子の詳細な解析は本研究が初めてであり、また同時に、TGF-βシグナルが生体内で状況に応じて(cell context-dependentに)多様な細胞応答を引き起こす一つのモデルを提起し、証明することができた。 TGF-βシグナルは、例えば、悪性腫瘍において、腫瘍の発生部位、組織形、微小環境との相互作用等により、腫瘍促進的な作用と腫瘍抑制的な作用とを併せ持つ。さらに、一つの腫瘍内においても、その環境、発生段階等によって、同様に腫瘍促進的な作用と腫瘍抑制的な作用を発揮する。これまで、このようなTGF-βシグナルの性質が、抗腫瘍剤のターゲットとしてTGF-βシグナルを考える際に問題となっていたが、今後、cell context-"specific"なTGF-βシグナルの制御薬剤が開発できれば、腫瘍促進的な作用と腫瘍抑制的な作用をそれぞれ独立して制御できるようになり、分子標的治療薬としての応用が期待される。
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Research Products
(5 results)