2007 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
07J13234
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
永野 いつ香 Kumamoto Gakuen University, 社会福祉研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 水俣学 / 差別 / コンフリクト / ライフヒストリー / コミュニティの変容 / アイデンティティ |
Research Abstract |
本研究の目的は、「水俣学」に基軸を置き、水俣病多発地区のなかでも固有の歴史を持つ「茂道」地区(漁村)に焦点を当て、住民のライフヒストリーを中心とした長期滞在型の聞き取り調査を実施した上で、水俣病事件史に特異的な差別の構造を社会福祉学的に解読することである。水俣病事件を、単に身体的被害(公害による疾病・障害)による個別的な現象としてのみ理解するのではなく、日常生活上の地域間での関係性を変容させる出来事、つまり社会的被害をも含めたものとして位置づけている。本年度は、1.「茂道」史の再構築、2.「第二世代」における水俣病の被害実態把握のための聞き取り調査を実施した。1.8月初旬より、茂道地区在住の、60〜80歳代の5名(男1名/女4名)から協力を得て、戦前・戦後における茂道での生活史調査を実施した。証言から、水俣病事件そのものが地域のコミュニティ変容に大きな影響を与えており、なかでも水俣病認定制度は地域での混乱や水俣病患者差別を生み出す大きな機構となっていることが明らかとなった。2.5月より、水俣病被害者互助会会長・佐藤英樹と、妻の佐藤スエミの協力を得て、ヒアリングを実施した。2007年、40〜50代を中心とした、水俣病被害者互助会が裁判を提訴した。ここでは、昭和30年代前後に発症した患者の子ども世代にあたり、認定制度のあり方に対して異議を唱え立ち上がる世代を「第二世代」と定義した。「第二世代」は、劇症の水俣病患者と比較すると軽度に見えるため、その多くが制度から取りこぼされており、水俣病患者としてのアイデンティティを長期間にわたって剥奪されてきたともいえる。これまで注目されてこなかった分、未解明な点も多く、今後さらに研究が必要となってくる分野である。なお、ここでのヒアリング結果は、最首悟・丹波博紀編『水俣五〇年ひろがる「水俣」の思い』(p.95〜112)に掲載した。
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Research Products
(1 results)