Research Abstract |
平成20年度は3年間の研究計画の初年度であり,倫理委員会への申請,関連文献の研究レビュー,調査計画の精緻化,調査の開始を行った。まず,性同一性障害と,その関連分野である同性愛・両性愛,いじめ・憎悪犯罪・トラウマ・心的外傷後ストレス障害(PTSD)等について文献レビューを行い,学会誌等への発表3件と国内学会における発表2件を行った。並行して,調査計画の精緻化,調査票やその他の調査ツールの整備を行った。それに伴い,性同一性障害に関して世界でも最初期から先駆的な取り組みをしているVrije Universiteit(オランダ,アムステルダム)のCohen-Kettenis教授の下に滞在した。当地での性同一性障害に関する研究と臨床を見学し,彼女の研究チームと討議し,日本での研究に関する指導・助言を得た。これにより調査項目を一部見直し,質問票を作成した。研究計画は「日本における性同一性障害の実態に関する研究(受付番号20-2-1)」として,国立精神・神経センター倫理委員会により承認された。平成21年1月より,はりまメンタルクリニック(東京都千代田区)を受診した性同一性障害患者の連続サンプルに対し,研究参加への書面同意の下,調査を開始した。調査内容は,メンタルヘルス,QOL,利き手,性別違和についての質問紙と,掌の撮像による指長計測である。平成21年3月現在,33名のデータが得られている。 日本においては,性同一性障害当事者の戸籍性別の変更が認められ,社会的な認知と理解も徐々に進みつつあるが,メンタルヘルスや心理社会的適応に関する知見は乏しい。本研究は,この分野での先進国での知見を取り入れ,日本の性同一性障害の病態・病因に迫ろうとする重要な取り組みであると考えられる。
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