Research Abstract |
リチウムイオン電池の正極材料は3d遷移金属を含んでおり,その価数が変化することでLiの脱離が容易に行われる.このため,充放電に伴うリチウム電池の材料特性の解明には価数を含めた遷移金属の電子状態の理解が特に重要となる.物性を支配する3d電子に関する情報を直接的に得る方法として,XANES/EELSが広く用いられる.このスペクトルは,遷移金属の価数・スピン状態及び遷移金属周辺の構造を直接反映している.スペクトルの持つ情報を客観的に得るため,恣意的なパラメータを一切用いない第一原理に基づく理論計算手法の開発を行ってきた.コバルトは,-1価から+4価までの幅広い酸化数をとる事が知られており,数多くのCo-L2,3端XANESスペクトルが測定されてきた.LiCoO2及びLaCoO3はコバルトの酸化数・スピン状態,配位子,配位数が同じであるにもかかわらず,実験及び理論スペクトルには,L2,3端共にそれぞれのピークの高エネルギー側の肩の部分に顕著な違いが確認出来る.これは,XANESスペクトルはコバルトの電子状態及びコバルト周辺の局所構造により支配されるという従来の一般論とは一致しない.このスペクトルの変化を特定するため,理想的な構造を用いて系統的な計算を行ったところ,LiCoO2中ではCoO6クラスターは,最近接の3価のカチオンが形成する静電ポテンシャルの影響が大きいのに対し,LaCoO3中ではクラスター周辺のポテンシャルが均一となっており,この違いがスペクトルの変化の主たる要因であることが判明した.同時に,他の結晶構造の寄与を系統的に評価したところ,3d軌道に及ぼすマーデルングポテンシャルの影響はペロブスカイト構造(LaCoO3),岩塩型構造,スピネル構造,層状岩塩型構造(LiCoO2)の順に大きくなることがわかった.結晶構造の変化がXANESスペクトルの影響を及ぼすという結果は,従来までの最近接原子配置がスペクトル構造を決定するという常識を覆す新たな知見である.
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