2009 Fiscal Year Annual Research Report
古代イタリア半島の言語動態研究-碑文資料にみる言語の通時的変容とその共時的反映
Project/Area Number |
08J03614
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西村 周浩 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ラテン語 / ファリスク語 / イタリック語派 / 母音の弱化 / 母音の脱落 / わたり音 |
Research Abstract |
現代の言語に話者がいるように、古代の言語にも話者がいた。この事実を踏まえると、我々の目の前にあるのが文字資料だけであっても、自然言語と向き合っているという態度を忘れてはならない。 私が研究対象としている印欧語族イタリック諸語の言語は、歴史上ある段階で初頭音節に強勢があったことが知られている。その一端を示すのが後続音節のおける母音の弱化・脱落であるが、その詳細なメカニズムについて十分かつ踏み込んだ研究が行われることはあまりなかった。この問題に現代語から得られるヒントを基に取り組んだ私は、その成果をいくつかの論文にまとめ上げることに成功し、周辺の研究テーマに国際的指標を示した。 イタリック系言語であるラテン語と近縁関係の深いファリスク語の研究も同様な視点から行われている。その前提となる資料整理は21年度中順調に進み、将来論文という形にまで進展が見込まれる研究テーマも見出された。語末の子音の脱落など、そこでも現代語の研究から重要なヒントが得られるものと予想する。 新たな研究テーマへの取り組みも始まった。ラテン語にはyやwといういわゆるわたり音が存在している。しかし、ラテン語音韻論の歴史的な考察においては、しばしばこれらの音が不適切と思われる解釈・分析を受けることがあった。ここでも現代語の知見が生かされる。言語類型論的な観点に立つと、yiやwuのような音節は極めて珍しいとされる。しかし、ラテン語のある音韻的事象を説明する際に、こうした音節が当然のように想定されるケースがある。私は伝統的な学説の見直しを訴え、yiやwuのような音節がラテン語内部でむしろ排除される傾向にあったと主張する。その詳しい内容はすでに学会において発表され、参加した研究者たちから好意的に受け入れていただいた。今後さらに内容を発展させ、学術雑誌として完成させる予定である。
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Research Products
(5 results)