2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J06422
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 幸平 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 横光利一 / 象徴主義 / 蠅 / 相対性理論 / 草稿 |
Research Abstract |
(I)草稿研究による横光利一の文体・作品分析 初年度は『時間』『上海』について、その草稿の写真を入手した。加えて、『寝園』・『家族会議』の創作メモ(宇佐市民図書館蔵)の撮影を行った。結果として、初年度に予定していた資料収集については期待以上の収穫を得ることができた。 (II)近代小説における象徴主義 研究計画で予定していた以上に調査範囲を広げ象徴主義に関する近代の言説を探査した。結果、明治期では片山正雄、島村抱月、岩野泡鳴、田山花袋などに、大正期では本間久雄、村松正俊、宮島新三郎、前田晃、西宮藤朝などに、象徴主義への重要な言及が見られた。調査の限りで言えば象徴主義待望論の散見するのは明治三十年代末と大正六〜九年頃との二つの時期であり、前者は西欧文学史を参照した外発的な運動、後者は国内の自然主義爛熟の末に生じた内発的な運動であろうと考えられる。 (III)横光利一「蠅」の主題 横光利一の初発期の象徴的作品として広く知られる「蠅」について論文を発表した。「蠅」がリルケ「駆落」の多大な影響のもとに創作されたことを指摘し、両者の比較を通じて「蠅」の主題を「認識主体の相対性」であると読んだ。またこの解釈の蓋然性を示すため、「蠅」の執筆された大正十年前後の言説を調査し、当時「相対性理論」が流行していたことや横光がアインシュタインや「相対性理論」に関心を持っていたこととを指摘した。この研究では横光の小説における「象徴主義」の具体的な現れと横光文学と近代科学との関係の一端を示すことができた。
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Research Products
(1 results)