2008 Fiscal Year Annual Research Report
ルソーにおけるパフォーマティヴィティに関する教育思想史的研究
Project/Area Number |
08J08218
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金菱 聖子 (菊澤 聖子) Kyoto University, 教育学研究科, 特別研究員DC2
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Keywords | アール(art) / J.-J.ルソー / テクスト論 / パフォーマティヴィティ / 方法 / 教育 / 原理と応用 / 実践 |
Research Abstract |
本年度は、「アール(art)=技」を鍵概念として、フランス構主義以降のテクスト論を踏まえて、『エミール』を中心にテクスト分析を行った。従来のルソー研究では、「ルソー問題」と言われるようにルソーの思想の「矛盾」が問題とされ、「統一性」を提示するという形でその「矛盾」の解決を図ることが試みられてきたのに対し、本研究は「パフォーマティヴィテイ」(パフォーマンス性)という観点を入れ込むことにより、「矛盾」を「統一性」の方へと収斂させるのではなく、逆に「矛盾」を手掛かりとして、表面的には「矛盾」して現れるその根本にあるルソーの思想の特異性を浮かび上がらせようとするものである。本年度はこのような試みの一つとして、『エミール』に見られるとりとめのないもののように思われる多くの具体例に着目した。これは、従来のような「人間の成長段階」を体系的に取り出すような見方からは「些細なもの」として切り捨てられるものであるが、逆にそこにこそ『エミール』でルソーが提示しようとする教育における「原理」、「人間をつくるアール」を見ることができるのではないかということを明らかにした。本研究は、教育にとって古典的で、かつ現代においても変わらず重要なものである「原理」と「応用」、「普遍」と「個」の問題に関わるものである。教育は「実践」の領域にあるものであり、また「個」に関連するものであるというところにその本質があるゆえ、教育「学」と言った場合、その実践的で個別的なものをどのように「原理」として述べるのかという困難がある。本研究はこのような問いに対して、実践的であり個別的なものを「アール」という概念のもとに取り上げ、そこからいわゆる近代自然科学的な「学」の観点からはなかなか捉えきれなかった、実践的であり個別的なものである教育および教育「学」の語りの新たな可能性を模索する研究の一つとして位置付けられる。
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Research Products
(1 results)