1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09610052
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Research Institution | Kyushu Institute of Design |
Principal Investigator |
米村 典子 九州芸術工科大学, 芸術工学部, 助教授 (30243976)
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Keywords | 女性画家 / ジェンダー / ローザ・ボヌール / ベルト・モリゾ / マリー・バシュキルツェフ |
Research Abstract |
画家が絵画を制作する場所,また絵画制作を学ぶ場所をともにアトリエと呼ぶとすれば,それは長く男性が支配する場であった.見る/見られる,画家/モデルという二項対立の構造は,男性/女性というジェンダーに割り振られていたのである.本研究が主として対象とする時代は19世紀後半であるが,女性画家は当時の社会的規範においては「見られる」ジェンダーに属しながら,眼差しの主でもあろうとした.このような認識に立って昨年度に収集した資料に検討を加えた結果,本年度の展開として以下の二つの方針をたてた. 1. 女性画家の自己イメージをその表象から検討する. 2. 女性画家は,自らの帰属する社会と階級の要求する「女らしさ」と,芸術活動という「見る」=男性的行為をどのように両立させたか,あるいはさせなかったかを明らかにする. 1.については,昨年度に引き続き,アトリエで制作中の画家を単身もしくは集団で写した写真と描いた絵画を図版として蒐集し,データベース化している.また,女性画家だけではなく,比較対象として男性画家についても同種のものを収集した.このデータベース化の過程で,女性画家の服装が画家の自己イメージに大いに関わっている点に注目するにいたった.とりわけ,上流階級に属するベルト・モリゾとエヴァ・ゴンザレスの絵画制作中の自画像と写真における服装の差異は示唆的であると思われる.また,女性画家ローザ・ボヌールもその男装という観点から検討対象として重要となった. 2.については,フランスにおける美術学校の教育カリキュラムの問題が重要課題となった.とりわけ,女性画家が男性ヌードを描くことの是非を巡る教育議論は,眼差しの問題が最も顕著に現れている事例として検討すべき対象となった.これに関する実際の女性画家の体験という観点から,文献資料としてベルト・モリゾ,マリー・バシュキルツェフ,モダーゾーン・ベッカーなどの書簡や日記を収集,解読中である. 1.の自己イメージの表象のあり方と,2.の「女らしさ」と「見る」という行為の両立のあり方がどのように関係しているかを検討することにより,画家とモデルの見る/見られるの関係が最もむき出しで立ち現れるアトリエといる遮蔽された空間における女性画家の眼差しの性格を明らかにすること,それによりグリゼルダ・ポロツクのいう「女性性の空間」に従来とは別の角度から批判を加えることが可能となると考える.
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