Research Abstract |
本研究計画は,物語文章の中に学習事項を埋め込むことによって学習の意図なしに学習を促すことができるという事実に着目し,このような物語を通しての学習の効果をさらに高めるための最適条件を探ることを目的としている。一年目に当たる本年度は,文中の特定部位に対する注目,すなわち,談話焦点に関する実験的研究を中心に行った。当初の計画では教示の効果を検討する予定であったが,実験を進める中で,談話焦点のメカニズムが初期の想定よりもかなり複雑であることが明らかになってきたため,この点を掘り下げる研究を行った。一連の実験の結果,談話焦点の効果の方向性は,焦点の当たっていない部位,すなわち,非焦点部位の意味内容によって決定づけられることが判明した。また,物語からの学習の効果を直接的に調べるため,学習事項を埋め込んだ物語を実際に作成し,この材料を用いた予備的な実験も行った。この実験では,物語構造と学習効果の間には直接的な関連は見られなかった。このことから,学習効果との関連を見出すためには,物語構造についてのより精密な理論的検討が課題であることが示唆された。これらに加えて,談話焦点の効果と物語構造を橋渡しする位置づけにある現象として,動詞の意味的バイアスに関する実験的研究を行った。これは,動詞の種類によってその動詞が表す出来事の原因と目される対象に偏りが見られ,原因と見られる対象に注目が集まる(談話焦点が移動する)というものである。今回の実験では,同じようにバイアスが見られる場合でも,動詞の種類によってバイアスの生じるメカニズムが異なる可能性が示唆された。このことは,談話焦点と因果的な物語構造の間の交互作用の一端を示している。次年度では,この相互作用的なメカニズムについてさらに詳しく検討し,物語構造の理論的詳細について精査することによって,物語による学習の効果を高める条件を探っていく。
|