2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
09J01410
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
井出 匠 Waseda University, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | スロヴァキア・ナショナリズム / オーストアリア=ハンガリー帝国 / ナショナル・アイデンティティ / 東中欧近代史 |
Research Abstract |
研究代表者の研究課題は、「スロヴァキア人民党」の設立期の動向を詳細に把握し、ナショナリズムを基調とするその政治的影響力が一般民衆に及んでいく過程を検証することであった。2009年度は研究指導委託措置により、主としてスロヴァキア共和国の首都ブラチスラヴァにおいて研究活動を行った。当地では受入研究者であるコメニウス大学哲学部のロマン・ホレツ教授の指導のもとに、人民党をはじめとする20世紀初頭のスロヴァキア系政治党派による新聞・雑誌等の刊行物や、関係人物の残した書簡等の一次資料に加え、先行研究文献等の解読に従事した。同年度前半期においては、人民党をはじめとするスロヴァキア・ナショナリズム勢力にみられる反ユダヤ主義的傾向を研究対象の中心に据え、その特徴と機能の分析をテーマとした報告を10月31日の日本ユダヤ学会学術大会において行った。 年度後半期においてとくに注目したのは、各政治党派の刊行する新聞に寄せられた一般の読者による投稿記事である。ここでは、北部ハンガリー(スロヴァキア)各地の都市や農村において、とりわけ選挙等による政治的状況の現出を端緒として住民同土の対立関係が先鋭化していく事例が数多く報告されている。ここから読み取れるのは、スロヴァキア系が住民の大多数を占める地域において、スロヴァキア人民党支持者が自らを「スロヴァキア・ナショナリスト」と位置づけ、スロヴァキア人としてのナショナルなアイデンティティを重視していたのにたいし、その対立政党の支持者は、同じくスロヴァキア系であるにもかかわらず、「ハンガリー愛国者」や「カトリック教徒」といった前者とは異なる次元のアイデンティティを拠り所にしていたという事実である。従来のスロヴァキア史学においては、スロヴァキア・ナショナリズムはハンガリー王国の支配民族であるマジャール人の抑圧にたいする抵抗運動として評価され、スロヴァキア人-マジャール人というナショナルな対立構造が歴史叙述の前提とされてきた。しかし実態としては、同一のエスニック・グループ内のアイデンティティの多様性に起因する、ナショナリスト-非ナショナリストという対立構造の方がより支配的であったいうのが、現在のところ得られた結論である。
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Research Products
(2 results)