Research Abstract |
本研究は,英語学習者の音声の韻律的側面の制御能力を,教師による主観評価に代わって客観評価する計算機モデルを構築することを目指す。音声の韻律的な情報を伝えるための,音声の長さ,大きさ,高さの変化について,音声を生成する側である学習者の制御特性と,音声を知覚する側である英語母語教師の知覚特性の両面を詳細に分析し,それらの結果を組み合わせて,人間による評価を高い精度で代行するモデルを構築し,試用実験によってその有効性を確かめる.本年度は,韻律の3つの要素のうち,長さと大きさに焦点を当てた. まず,英語音声のリズムを特徴づける強勢と弱勢の対比に着目して,学習者の強/弱勢母音,強/弱音節の持続時間の特徴とその主観評価への影響について分析した.その結果,学習者は弱勢の音声区分長を短縮するのが困難であり,母語話者のように強勢と弱勢の差を付けることができていないこと,また,弱勢の音声区分長のほうが主観評価に与える影響が大きいことが明らかとなった.この結果は,査読付き国際会議INTERSPEECH(採択率57.7%)等で発表済みであり,又本年度末現在学会誌に投稿し査読中である. 次に,大きく聴こえる音韻ほど評価者が主観評価に役立てているであろうことに着目し,これまでの音韻の持続時間のみによる尺度(尺度A)に代え,音韻の持続時間に音韻の聴こえの大きさで重み付けを行った,評価者の知覚特性を考慮した尺度(尺度B)を検討した.その結果,尺度Bを利用して構築したモデルのほうが評価値予測精度が高く,知覚特性の評価尺度への利用の有効性が示された.この結果は,査読付き国際会議IEEE ICASSP(採択率44.7%)等で発表済みである. これまでの関連研究では,学習者の制御特性のみが分析の対象とされ,母語話者の知覚特性が考慮されることは希少であった.報告者の本年度に得られた成果では,知覚特性を評価モデルに反映することの有効性が示され,本研究遂行の重要性が確認された.
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