2010 Fiscal Year Annual Research Report
近代中央アジアにおけるイスラーム王権とムスリムの政治秩序観
Project/Area Number |
09J07229
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
木村 暁 (財)東洋文庫, 研究部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中央アジア / イスラーム / 王権 / ブハラ・アミール国 / マンギト朝 / ロシア帝国 / イデオロギー / 宗派 |
Research Abstract |
第2年度(平成22年度)は、本研究を構成する各論のうち、イスラーム王権をめぐるムスリムの政治秩序観、ならびに、ロシア帝国をめぐるムスリムの政治秩序観、という二つのテーマに重点を置き、稿本、文書、刊本等の原典史料の分析を通じて以下の成果を得た。まず、ブハラ・アミール国史研究の根本史料であるにもかかわらず、内容的にも書誌学的にも未解明の部分を多く残す『ハンへの贈物』と題されるペルシア語年代記の諸写本を校合・検討し、同書に関する新たな解釈を提示した。ついで、ロシア統治期に大きく変化したブハラにおけるスンナ派とシーア派の宗派関係について、その歴史的な変容のプロセスをウラマーの認識に注目しながら跡づけるとともに、この変容プロセスと、ブハラ・アミールのスンナ派正統主義イデオロギーの発現の如何とが密に相関していたことを明らかにした。以上2件の成果については英語論文を執筆済みであり、それぞれ次年度刊行の論文集に収載される予定である。このほか、ロシア統治最初期にサマルカンドのウラマーが残したテュルク語著作の分析を通じて、ロシア帝国支配のムスリムによる受容がムスリム自身によって合理的に正当化された状況と脈絡を明らかにするとともに、この著作のテキスト翻刻・訳注の出版準備を進めた。また、ロシア当局が中央アジアの植民地を知悉すべく編纂した『トルキスタン集成』と呼ばれる浩瀚な文献コレクションについて、その史料としての価値と可能性を、上記テュルク語著作をはじめとする現地語史料との関係において評価・検討する口頭の研究報告をおこなった。総じて以上に実施された研究は、依然十分に検討されていない諸々の重要史料を積極的に活用するとともに、それらに依拠しつつ実証的見地からムスリムの王権認識や政治秩序観に考察を加え、いくつかの新知見を導き出している点で意義を有する。
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Research Products
(1 results)