Research Abstract |
近代の(学校システム)の史的特質をプロイセン・ドイツにおける近代学校形成期に限定して, その内部構造において解明しようとするのが本研究の目的である。今年度は, 残された史・資料の調査収集とその史的検討を継続するとともに, 本研究の全体的なまとめ・総括を行った。まず, G. ジラールにおける相互教授法論の訓育的側面の考察を行い, 相互教授法を適用した学校のシステム(等級化)の有する, 学力の序列化=利己的所有と, その防止策としての, 「学習の共同性」の論理を析出した(紀要論文)。「研究成果報告書」においては, (1)プロイセン・ドイツにおける近代学校システムの自覚的形成の一つの重要な契機となったのがベル=ランカスター・システムの受容とその批判であったこと, そして, その受容と批判の系譜を, (1)1800年代のイギリス経由の紹介期, (2)1810年代におけるフランス経由の受容とその批判期, (3)1820〜30年代のデンマーク領エケルンフェルデの模範学校における「相互学校システム」の受容とその批判期, の三つの時期に区分して検討した。(2)第一期・第二期の諸特徴はこれまでに明らかにしたので, 第三期の特徴に限って整理すると, (1)ベル=ランカスター・システムは教授法ではなく「相互学校システム」であるとして, その修正がめざされ, 教授活動と区分された生徒の自習=習熱活動のシステムと位置づけ直されたこと, それは, (2)生徒の規律=訓練システムであると同時に, (3)道徳教育論形成の契機としても機能したこと, 等を明らかにした。そして(3)これらを, フォン・クローンおよび初期ディースターヴェークの所論を中心に検討した結果, 第一期, 第二期のナトルプに代表される学校論とは(教師-生徒関係)理解において微妙だが重要な相違を含んでいること, さらに(4)その相違が1836年以降のディースターヴェークにおける「相互学校システム」批判において新たな展開(ナトルプの学校論への回帰とその発展)を見せる可能性について推定した。以上をふまえて, (5)近代学校をめぐる二つの学校論(規律=訓練システム論とその批判的克服)の可能性について, および(6)近代学校メルクマールである, (1)クラス, (2)教室, (3)一斉教授, の三つの指標に照らして, この時期のプロイセン・ドイツにおける学校論とその現実形態の位置を明らかにした。
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