1998 Fiscal Year Annual Research Report
19-20世紀転換期におけるプランクとデュエムの物理学研究
Project/Area Number |
10680001
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
井上 隆義 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (00168452)
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Keywords | プランク / デュエム / 非平衡熱力学史 / 19-20世紀転換期 |
Research Abstract |
1. Planckによる1890年前後における非平衡・非可逆過程に関する物理学的研究,とりわけ非一様な濃度の二つの電解質溶液間の電位差(いわゆる液体電池の液間電位差)の研究について,(1)Planckの研究は,1888〜89年のNernstのこの分野における先駆的研究を踏まえて行なわれ,それをより一般的な場合へ拡張したものであること,(2)この仕事は,Planckの従来の研究方法,すなわち熱力学の第1,第2法則からの演繹的導出という方法と違って,濃度勾配という非平衡状態から定常状態に到る過程を流体力学と静電気宇の方程式を使って導出するという方法で行われたものであったこと,(3)この物理的過程の考察に当たって,Planckは,電解質の希薄溶液では分子がイオンに完全に解離しているとするArrheniusの考え方を採用し,分解されて生じた原子に電気が付着したものとしてのイオンが拡散するとする物理的な要素的過程を想定していたこと,(4)この研究を通じて,彼はそれまでの平衡熱力学の研究から非平衡状態に関わる非可逆過程の研究の重要性を把握したこと,(5)このことが,1890年代半ばから開始された熱輻射研究の課題設定と方法の選択に非常に重要な契機となったと推定されること,が明らかになった。 2. Duhemについては,19世紀末から20世紀10年代にいたる化学熱力学から非可逆過程の熱力学への研究の展開過程を調べることによって,彼独特の物理学観,すなわち熱力学ポテンシャル論による物理学全体の統合という観点が重要な意味をもっていたことが明らかになりつつある。この点はさらに詳細な検討が残されている。 なお,Planckに関する上述の研究成果について,現在論文を準備中である。
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