2012 Fiscal Year Annual Research Report
明治・大正期輸出振興政策下の刺繍工芸品に関する研究-日欧交流の視点から-
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11J01523
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松原 史 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 染織 / 刺繍 / 輸出工芸 / 工芸 / 図案 / 近代 / 明治 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き、近代刺繍の実態を包括的に明らかにするため、国内外の刺繍作品の把握・実見調査および目録、文献調査を行った。今年度は特に在外資料の発掘を重点的に行い、後期には約5ヶ月間ヨーロッパに滞在し、資料発掘・調査に努め、多くの現存作品・文献資料を発見することが出来た。また、近代の「絵画刺繍」と呼ばれた絵画的図案を持つ刺繍作品の成立に関する論考をまとめ、論文として発表した。以下それぞれに関して主な事柄を簡潔に挙げる。 【刺繍作品調査・国内】 鍋島藩旧蔵作品、京都工芸繊維大学所蔵作品、静嘉堂文庫美術館所蔵作品、博物館明治村所蔵作品、清水三年坂美術館の新収蔵品ならびに個人蔵作品の調査を行った。7月には祇園祭染織品の調査も行い、近代に続く近世の絵画刺繍の系譜に関しても幅広く考察した。また滋賀の近江刺繍に関する郷土博物館の展示を観覧するとともに、近江刺繍工房を訪問し、聞き取り調査等も行った。 【刺繍作品調査・海外】 イギリスのオックスフォードのアッシュモレアン博物館他、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリア、ハンガリー5カ国、計12カ所の博物館で作品の実見調査を行い、担当学芸員、コンサバターと意見交換を行った。 【その他文献調査および情報収集等】 イギリスのナショナルアートライブラリにおいて、リバティなどデパートのカタログ調査を行い、当時の日本刺繍作品の海外での流通の一端を明らかにした。国内においても京都の盲唖教育に於ける工芸に関して資料調査を行い、新見知を得た。 【資料分析】 現在迄に所在が確認された作品および国内の公文書資料、博物館資料を分析し、近代の「絵画刺繍」と呼ばれた独特な意匠図案を持つ刺繍の成立に関してまとめ、立命館大学アート・リサーチセンター紀要に論文を発表した。 すべての研究・考察の基礎となる作品把握ならびにその調査が想定以上に進展しているという点、分析作業も並行して行っている点、ヨーロッパの日本刺繍作品所蔵博物館との間に今後も継続可能なネットワークを構築することが出来ている点で、研究は順調に進んでいると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内外を通じて、想定以上の広がりを持つ地域で現存刺繍作品の存在を確認することが出来た。収蔵庫の移転や修繕の関係で今年度実見が叶わなかった博物館もあったが、2013年度夏以降に再度渡欧し調査することをほぼ確約済みであり、今後も続いて行くコネクションを構築することが出来たことは大変意義のあることであったと考える。資料・文献蒐集と並行して分析・考察作業も行っており、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年、一昨年に引き続き、近代刺繍の実態を包括的に明らかにするため、国内外の刺繍作品の把握・実見調査および目録、文献調査を行うとともに、考察作業を行っていく。来年度は3ヶ年計画の最終年であるため、その中でも特に蒐集した各種資料の分析・考察作業を重点的に行っていく予定である。ただ、資料調査も継続して行い、イタリア、スペイン等、今年度諸事情により調査が叶わなかった博物館の刺繍作品に関しては2013年夏に再度渡欧し調査を行う予定である。またイギリス植民地時代に蒐集された刺繍作品が多く残っているインドに関しても、治安を十分考慮した上で、可能ならば現地調査を行いたいと考えている。
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Research Products
(2 results)