2011 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀終盤から20世紀中盤までのフランスにおける理性主義と感性主義の相互運動
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11J09649
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 学 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | フランス文学 / 実証主義 / モーリス・バレス / アンリ・ベルクソン / マルセル・プルースト / ダダイスト / ルイ・アラゴン |
Research Abstract |
19世紀後半のフランスにおける実証主義思想の文学者への影響を検証した。客観的事実のみに学説を依拠させることを標榜する実証主義が、あるがままの社会的・生物学的現実を描き出すことを旨とする自然主義文学に理論的基礎を与えた行方で、宗教心や恋愛感情、空想や夢といった、物質的限定から離れた人間の情動を理想的・観念的に描出しようとする文学上の流れを反動として生み出したことを確認した。 続いて、モーリス・パレスの思想を、実証主義的主知主義・物質主義への抵抗という観点から、ベルクソン哲学との連続性において解釈することを試みた。この両者が、個人の感覚や精神、また無意識に、知や物質性による限定から自由な生の躍動を見て取る一方、そうした生の躍動を、現実世界に埋没した本源的過去=歴史を回復する経験として提起するようになる経緯を解明した。もって、客観性の支配に抗して個人性の至高的価値を掲げ、なおかつ個人性を歴史性によって肉付けすることで客観性に向けて開示しようとする、こうした客観性への逆説的拘泥を、実証主義を起点としつつその乗り越えを図るベルクソン=パレス思想の特質として析出した。 そののち、パレスからの影響を想定できる文学者たちの事例を検討した。マルセル・プルーストによる「無意志的記憶」の描写の文学的探求を、本源的過去の回復を目指すパレス的企てとの連関において考察し、プルーストの文化的保守主義を解釈する手だてをそうした連関に見出す試みを行った。パレスにおける自由の探求と愛国主義的政治思想との矛盾を問題化したダダイストたちの主張を精査し、矛盾一般を自由として称揚しつつパレスの矛盾をそこから排除する彼らの所作が、あるべき矛盾=自由の限定として、パレス自身の所作に重なること、こうした近しさの自覚から、パレスの政治的立場を相対化し、その自由の探求に改めて眼を向けるルイ・アラゴンが登場することを究明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に「研究の目的」と併せて記載した「本年度(~平成24年3月31日)の研究実施計画」の内容を遂行することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降の研究においては、19世紀末から20世紀中盤までの幅広い時期に公刊された、日本国内では参照できない新聞記事・雑誌記事等を扱う計画となっているので、それらを所蔵する在フランス図書館での資料参照・収集を積極的に行う予定である。また、平成24年(2012年)は本研究が検討対象とする複数の作家の生没記念年にあたり、フランスで各種シンポジウムが開催される運びとなっている。これらに関しては、上記資料参照・収集の時期を適切に設定することで可能な限り参加し、得られる知見により本研究の一層の充実を図る。
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