2012 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀終盤から20世紀中盤までのフランスにおける理性主義と感性主義の相互運動
Project/Area Number |
11J09649
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 学 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | フランス文学 / シャルル・モーラス / ポール・ヴァレリー / 実証主義 / モーリス・バレス |
Research Abstract |
前年度の主要な研究対象であった、モーリス・パレスの感性主義との比較において、シャルル・モーラスの思想を把握することを試みた。明確になったのは、両者の思索が、個と一般性、過去と現在、情動と知の関係をめぐって、対極的に展開されていることであった。個の情動的経験を通じた本源的過去の回復という主題をモチーフとするパレスの思考に対し、モーラスの思考は徹底して、個を現に存在する「自然」として引き受けられるべき伝統=過去のなかでのみ意義を持つ存在と規定し、そうした「自然」の受入れの導き手たる「理性」の役割を重要視する。かくして、パレスにおいて保たれ続けた個の一義性はモーラスにおいては棄却され、文学的伝統や中世来の王制国家、理性といった一般性の支配が望ましい秩序として肯定されるのとともに、パレスの拒絶した実証主義が「真理」の探求の学として特権的に受容されることを本研究は考究した。 以上に引き続き、ポール・ヴァレリーの思想をモーラス思想と対比させつつ考察した。その結果、この両者の思索に、一般性への志向によって特徴づけられる数々の重要な類似が見られることを明らかにした。ヴァレリーによる文明の多様性の称揚、精神活動の多様性の称揚は、文化的・社会的単一性に価値を置くモーラスの主張と相反するかに見えながら、多様性を純粋なものとして知的に抽出しようとする一貫した姿勢ゆえに(「ヨーロッパ文明」や「純粋自我」等)、一般的なものとの関係からのみ個を意義づけるモーラスの視座と共通の構図を指摘することが可能である。こうした構図の共通性が、創作を作者の企図から引き離すヴァレリーの詩学とモーラスの「古典主義」との通底可能性を生み出していることを本研究は最終的に浮かび上がらせた。 上記の研究成果は、すでに進行中の平成25年度の研究の成果と併せて公表することが目論まれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に「研究の目的」と併せて記載した「本年度(~平成25年3月31日)の研究実施計画」の内容を遂行することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本研究の遂行に係る最終年度であるため、当該年度に割り当てられている研究を着実に実施することに加え、これまでの研究成果を総括する作業を並行して進めることに努める。成果の部分的な公表も、積極的に行う予定である。また、当該年度で扱う作家たちに関する文献調査と併せ、遂行済みの研究内容をより充実させるための補完的な文献調査についても時間の許す限りフランス本国で行い、研究の完成に向けた全般的な精練作業を加速させる。
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