2011 Fiscal Year Annual Research Report
ナショナリティを軸とする公正な多文化共生の世界秩序に関する規範理論的研究
Project/Area Number |
11J09694
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
白川 俊介 青山学院大学, 国際政治経済学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | リベラリズム / ナショナリズム / シティズンシップ / 人権 / 多文化共生世界 / 棲み分け |
Research Abstract |
本研究の目的は、近年の政治理論において主要な潮流として台頭しつつある、リベラル・ナショナリズム論を批判的に継承し、国民国家体制を軸とする公正な多文化共生世界の構想を規範理論的な視座から提示することにある。 本年度は以下の3つのことを行った。まず、リベラル・ナショナリズムの代表的論客であるデイヴィッド・ミラー氏を招聘して開催されたセミナーにおいて、"The Boundaries of Democratic Citizenship:A Critical Consideration on the Universal Communication Community"と題して、ミラー氏のシティズンシップ論とアンドリュー・リンクレイターのシティズンシップ論の比較を行った。この報告の内容は、拙著『ナショナリズムの力』(後述)の第3章にも反映されている。 第2に、ネイションと非ナショナルな集団との公正な関係を論じる基礎理論を提示するにあたり、両集団間の公正性を担保する原理の1つとしての人権に関する研究の遂行である。人権はこれまで当たり前のように普遍的なものだとされてきたが、実は西洋の文化的な土壌の上で培われてきた概念である。だからそれを他の文化的土壌に馴染んだ人々にもそのまま当てはめるのは難しい。これはいわゆる文化相対主義的な(非基礎づけ主義的)人権観である。しかし相対主義ではあらゆる他文化的な由来をもつ人権観を拒否することに理論上はなりかねず、やはり何らかの基礎づけが求められるように思われる。何によって基礎づけられるべきか、あるいは何によるべきではないのか、今後さらに研究を進めるつもりである。さしあたり中間報告のようなものとして、"A Culturally Sensitive Approach to Human Rights and Its Implication to World Order:From a Liberal Nationalist Perspective"と題した報告を行った。 第3には、ひとまずこれまでの研究をまとめたものを『ナショナリズムの力-多文化共生世界の構想-』として勁草書房より2012年2月に刊行した。従来のリベラリズム理解から導出される多文化共生世界の構想を「雑居型」と呼び、リベラル・ナショナリズム論に基づいてそれを批判的に検討し、望ましい多文化共生世界の構想として「棲み分け型」を提示し擁護した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
なによりもまず著書を公刊することができたからである。また、本書に向けた作業にある程度時間を取られたとはいえ、人権に関する研究報告を行うことができた。また来年度の研究に向けた準備もある程度進捗しており、いくつかは形に出来る目途は立っているからである。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度はまず、研究計画通り、ネイションと非ナショナルな集団との公正な関係を論じる基礎理論を提示する。既存の多文化主義議論につきまとう理論的な陥穽を打破し、特にウィル・キムリッカの「リベラルな多文化主義」に修正を施す。それに関して、より実証的な観点からの理論構築を可能にするために、オーストリア・ハンガリー帝国における民族自治政策の批判的検討を試みたい。可能であれば現地に赴き、史料収拾を行いたいと考えている。
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Research Products
(4 results)