2011 Fiscal Year Annual Research Report
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11J10270
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
朴 嵩哲 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 他者理解 / 自己理解 / 理論節 / モニタリングメカニズム・モデル |
Research Abstract |
報告者は、他者理解能力を、その障害についての知見をはじめとした経験的知見を手掛かりにして解明しようと研究に取り組んできた。 他者理解能力のメカニズムを詳細に記述するさいに、それと自己理解能力との関係を明らかにすることが重要な課題となる。この関係についての一つの立場である理論説によると、自己の心と他者の心は両方とも常に推論によって知られるという。近年、これに対してニコルズとスティッチは、自他の心は推論によって知ることができるが自己の心だけは直接的な仕方でも検知できると主張し、この自己知の直接性を具体化したものとしてモニタリングメカニズム・モデルを提示している。彼らによると、自己理解(のうち、早期に発達する部分)は、モニタリングメカニズムという自分の心だけをモニターする認知機構が、自分の心的状態を直接検知することによって可能になる。つまり、自己理解は、つねに推論に頼るしかない他者理解能力とは根本的に異なる方法によって実現されているというのである。また、彼らは、このことを支持するデータとして、十分な他者理解能力のない幼児や自閉症者にも自己理解能力があるという実験結果等を挙げている。 応用哲学会臨時大会(2011年9月、於京都大学)において報告者と共同研究者は、ニコルズとスティッチが根拠として挙げてきた実験はそもそもここで問題となっている他者理解能力のかかわらない自己理解能力の有無を検出できるものではなく、したがってモニタリングメカニズム・モデルには十分な経験的根拠がないことを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
他者理解と自己理解の関係について、経験的知見を丁寧に参照しながら他の論者の説の難点を指摘することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は他者理解と自己理解の双方を説明するモデルを提示することを目指す。今後も引き続き経験的知見の検討を丁寧に行っていくと同時に、さらに、より原理的な観点からも、各モデルを検討する。それによって、モニタリングメカニズム・モデルのような自己理解の特別さを認める説を批判し、対立する説である「他者理解なき自己理解はありえない」という説の可能性を検討していく。
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