2012 Fiscal Year Annual Research Report
幻想の起源としての都市の表象研究-世紀転換期の欧米都市と幻想文学
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11J10309
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坪野 圭介 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 世紀転換期 / 都市小説 / 幻想文学 |
Research Abstract |
本年度は、研究対象である世紀転換期の欧米都市について、文化史的研究と文学テクスト分析の接合を積極的に進めた。 文化史的観点に関しては、とりわけ19世紀末から20世紀初頭にかけての欧米圏における視覚メディアに注目し、新聞漫画や映像装置が都市文化の中で発達していく状況を調査した。そこで得た知見を、同じ時代に書かれた文学テクストと照らし合わせることで、一種の「幻想」を形作る想像力の一端が、複数のメディア表象を通して都市生活に浸透していたこと、また反対に人々の中に根付いたそうした想像力こそが幻想文学のよりどころとなっていたことを明らかにした。 研究の成果は論文として発表した。新聞漫画については、日本マンガ学会の学会誌『マンガ研究』19号に「TS.エリオット初期の詩と新聞漫画-モダニズム詩と漫画の接近をめぐって」を発表した。映像装置については、東京大学現代文芸論研究室論集『れにくさ』4号に「光学機器とメタフィクション-アドルフォ・ビオイ=カサーレス『モレルの発明』とスティーヴン・ミルハウザー「幻影師、アイゼンハイム」」を発表した。前者においては、一方で世紀転換期に生まれた新しいメディアである新聞漫画を、他方でアメリカ・イギリス両国で活躍しフランスにも留学経験のあるLS.エリオットのテクストを取り上げることで、当時の欧米都市の諸相を幅広く射程に入れた考察を行った。後者においては、当時発達しはじめていた映像文化が現代にいたるまで幻想文学に与えてきた影響を、ラテンアメリカなど欧米以外の地域まで視野に入れて検討した。 また、欧米文学・文化を研究する有志の大学院生による研究会を定期的に行い、関連し合うそれぞれの分野での知見を共有してきた。 以上の成果によって、本年度は、三年度目に本研究をまとめるための基盤を築いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
光学機器や新聞漫画といった、文化史と文学的テクストをつなぐ重要な結節点を、当初の研究計画以上の進度で見出すことができた。また、計画通り世紀転換期の欧米都市を基盤としながらも、そこで得た視点を、時代でいえば現代まで、地域でいえばラテン・アメリカにまで拡げて研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は一年度目・二年度目で築いてきたパースペクティブをできるだけ多くの文学テクスト分析へと応用し、本研究め中心課題である「現代幻想文学の起源」を描き出すことを目指す。複数の欧米都市の世紀転換期における個別的な文化状況を踏まえつつ、そこに共通した想像力が醸成されていたことを見出し、その想像力がひとつの文学ジャンルの形成へとつながり、さらには発展していくまでの道筋を辿る。
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Research Products
(2 results)