2011 Fiscal Year Annual Research Report
近世畿内の在地支配構造と村落社会―地域社会論・伝統社会論の視角から―
Project/Area Number |
11J10429
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
齊藤 紘子 大阪市立大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 伯太藩 / 陣屋元村 / 大坂定番 / 村落社会 / 郷宿 / 和泉国 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度提出した博士論文を踏まえて、未発表原稿の肇表準備を進め、原稿化へのステップとして、大阪歴史学会近世史部会で研究報告を行った。従来、伯太藩渡辺氏の陣屋変遷については、藩が大坂定番在任中の享保12年に泉州大鳥郡大庭寺村から同州泉郡伯太村へ移転したと指摘されるのみで、移転前後の陣屋や陣屋元村の特質については未検討であった。そこで、定番大名の地方支配の特質も踏まえて、両陣屋元村の特質および藩の地方支配について検討した。その結果、定番就任前の大庭寺村陣屋は、代官・下役が居住し、のちの伯太陣屋よりも狭小だが地方支配の拠点として機能したのに対し、定番就任によって代官が大坂へ移ると、陣屋は家中不在となり、地方支配の拠点が大坂の定番屋敷に移動したことを指摘した。一方、陣屋移転の動きについては、人足の動きや小谷宛の書状から、藩主死去直前の享保13年6月に定番退役が決定的となって開始されたが、突貫工事のため御殿建設すら間に合わず、一部の家中は陣屋外に「在宅」(百姓家での借宅)したこと、しかし伯太村では百姓が郷宿を開始し、逗留家中の権威を借りて領内庄屋中と得意関係を築くなど、新たな町場形成の動きもみられた。以上から、研究蓄積の少ない大坂定番と畿内所領村々との具体的関係を示すとともに、陣屋元村論についても、(1)陣屋元村の構成・機能・在地社会との関係という面からみると、大庭寺村と伯太村の陣屋は構成要素が異なり、(2)伯太村での新たな動きは、領主家中の居住という条件が生み出した城下町特有の都市性の萌芽としても捉えうることなどを指摘した。 また3月には、イェール大学東アジア研究所主催の特別シンポジウム「日本史における都市と地域」に参加し、地域史に関するセッションにおいて、研究報告「和泉市平野部における17世紀の村落社会-池上村を対象として-」を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
博士論文のうち未発表部分について、さらに考察を加え、論文化の目途を立てることができた。その過程で伯太藩の「触頭」を勤め、藩財政や陣屋建設に関する資料が現存する泉州大鳥郡小谷家文書の調査を行い(於国文学研究資料館)、関連史料の閲覧・撮影などを行った。それによって、陣屋建設時の藩の動きや、陣屋移設先の伯太村における動きに関する史料などを確認することができ、博論執筆段階では見通しにとどまっていた問題群を、より具体的に明らかにすることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
伯太藩領のうち特に研究対象とする下泉郷の地域社会のあり様について、関連史料群の調査活動をもとに史料分析を進め、主に17世紀末から18世紀中期における郷運営について、(1)郷内の村落社会構造や庄屋間秩序、(2)郷の入用構造、(3)陣屋元村の変遷と所領支配の動向などを検討する。また、他領との錯綜が著しい当該地域では、生活・生産の様々な局面において、個別藩領のみには完結しない社会関係が形成されていた。こうした事実を踏まえ、下泉郷内部だけでなく、それを包摂する周辺地域の社会構造を明らかにすることで、畿内における個別領主支配の特質を再検証する。
|
Research Products
(3 results)