Research Abstract |
本研究は,幼児期の他者からの評価に対する情動反応の個人差について検討することを目的とする。平成23年度は,保育所に通う6歳児89名を対象に,個別に「失敗・評価課題」,「心の理論課題」,「保育所の活動に関するインタビュー」,「語彙課題」を実施した。「失敗・評価課題」には,教師役及び参加児役の人形が登場する教師版の課題(Heyman et al,1992の修正版)と,仲間役及び参加児役の人形が登場する仲間版の課題(新たに作成)があり,参加児は,教師版の課題を実施する教師条件と仲間版の課題を実施する仲間条件のいずれかに割り当てられた。参加児は,参加児役の人形が創作活動で失敗をするが評価を受けない「失敗場面」と,創作活動での失敗の後に他者(教師または仲間の人形)から批判的評価を受ける「批判場面」の人形劇を見て,各場面での(1)情動,(2)作品評価,(3)再挑戦の意欲についての質問に回答した。結果から,批判する他者の属性によって,幼児の批判に対する反応に違いがあることが示された。批判場面での再挑戦の意欲は,仲間条件では失敗場面と比べて低くなるのに対し,教師条件では維持された。また,各条件・各場面での反応と心の理論課題の成績及び保育所での活動に対する自信との関連を検討したところ,教師条件では,批判場面での作品評価と心の理論課題の成績との間に有意な関連が認められた(作品評価と一次の誤信念の理解は正の関連,作品評価と二次の誤信念の理解は負の関連)が,仲間条件では,両者の間に有意な関連は認められなかった。さらに,保育所での活動について高い自信を持つ幼児ほど,他者(教師または仲間)から批判的評価を受けた後の作品評価が高いことが示された。幼児の他者からの評価に対する情動反応を通じて,標準的な発達の様相の解明にとどまらず個人差を規定する要因を明らかにしたことは,本研究の特に重要な点である。
|