2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代フランス社会におけるシティズンシップ教育政策の論理と展開
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11J10670
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
降旗 直子 東京大学, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | フランス教育政策 / シティズンシップ / 68年5月 / 公民教育 |
Research Abstract |
本研究の目的は、フランスにおけるシティズンシップ(市民性)教育政策の論理を、その展開に即して分析することによって、フランスが1980年代以降、公教育においてどのように将来の社会の担い手となる市民を育成しようとしてきたのかを明らかにし、今日の実践動向を踏まえた上で、理論的な課題を考察することである。そこで採用1年度目となる本年度は、以下のように研究を遂行した。 第一に、日本では「五月革命」などとして知られるフランスの「68年5月」(mai 68)の生成要因とその後の社会的影響に着目することで、フランスにおいて1980年代半ばにいかなる論理で公民教育(Education civique)が再興したのかを探り、80年代以降、フランスのシティズンシップ教育政策がどのような論理で展開してきたのかを明らかにする上での示唆を得ようと試みた。これは80年代以降のフランスにおけるシティズンシップ教育政策の展開を分析する上での重要な布石となるものであり、80年代に本格化するシティズンシップ教育政策の前史を描く作業である。また、こうした作業と並行させて、フランスのシティズンシップ教育政策をめぐる最新の研究動向を把握し、内外の先行研究の収集及び渉猟を行うと同時に、採用2年度目に向けた研究の準備を行った。 第二に、昨年度に実施したフランスにおけるフィールド調査の結果を、同行した研究者らと共同研究発表というかたちで公表したり、フランスのシティズンシップ教育に関する重要資料として、「余暇センター」という日本の児童館のような施設が行っているシティズンシップ教育プログラムを共同翻訳したりすることで、今日のフランスにおけるシティズンシップ教育の実践動向を把握することに努めた。訪問調査したフランスの中等教育段階におけるシティズンシップ教育をめぐっては、一方の職業リセでは、公民教育において生徒が現代社会に関するテーマに対し、論理的な意見を形成しそれを書いて表現させることで、民主的な議論に向けた準備をさせていた。他方のフレネ教育実験コレージュ・リセでは、国民教育省によって提示されるテーマを学習するのではなく、個人の関心のもと調べ発表することで学習内容の共有化が図られる、いわゆるプロジェクト型の学習によってシティズンシップを身につけさせようとしており、公民教育といった特定の時間を設けての実践はなされていないことが明らかになった。これらの知見は、日本でシティズンシップ教育を構想する際に理論的な示唆を与えるものであり、こうした研究成果を踏まえながら、採用2年度目はさらなる研究の推進に励むことにより、本研究をまとめていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、シティズンシップ教育政策の歴史的生成と現代的展開、フランスと日本、そして政策と実践という横断的・架橋的研究を行っていることに大きな特徴があるが、なかでも本年度は中核的な位置を占めるフランスのシティズンシップ教育政策の歴史的研究について、「五月革命」が与えた影響という、これまでほとんど顧みられることのなかった視点から取り組み、重要な研究成果をあげることができたといえる。一方で、その実践動向の把握という点では、共同研究発表及び共同翻訳という形で成果をあげることはできたものの、渡仏しさらなる追加資料・情報の収集が困難な状況もあり、不十分さも残す結果となっている。こうした進捗状況を総合的に見て、決して十分とは言えないものの、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、80年代の政策を主に分析してきたこれまでの研究成果を踏まえ、対象を90年代以降に拡大していく。具体的には、大きな政治的論議を経る学習指導要領改訂期をメルクマールとし、1995年、2002年、2008年の各々の改訂期にシティズンシップ教育政策に関わったアクターを特定し、カリキュラム形成をめぐる政治の見取り図を作成する。その上で、政策を主導したアクターらの主張を明らかにする。その際、アクター間の対立や葛藤に着目し、それらがカリキュラムを形成していくあらゆる段階において、どのように合意・決定へと向かうのかを明らかにすることで政策の論理を析出する。 当初の計画では、採用1年度目を主に政策研究、2年度目に現地調査に当てることを予定していたが、現地調査には調査先の了承が得られない場合も想定されるため、本研究ではこれまでの調査データを見直す作業でデータを補いつつ、今後の研究においては1年度目に十分遂行することのできなかった政策研究をより重点的に進めていくものとする。
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Research Products
(4 results)