Research Abstract |
本年度の目的は,(1)介入研究を実施するための体制作り,(2)パイロットスタディの実施,(3)今までの環境調整に関わる論文の学会誌への投稿を達成することであった。 (1)研究を実施するための体制作りについては,7月までに予備的検討に当たる部分の研究を東京大学医学部附属病院の倫理委員会に通した。本研究の計画の倫理委員会通過は,保険診療との兼ね合いや筆者が有資格者ではないことが障壁となり,次年度に持ち越された。その後,8月にYale Child Study Centerを訪問し,Lawrence Scahill教授,Denis Sukhodolsky研究員から本研究で実施するCBIT(Comprehensive Behavioral Intervention for Tics)を学んだ。両研究者は126名でのRCT(Piacentini et al.,2010)を成功させたグループの中心人物であり,論文に記載されていない情報の共有や,セッションの様子の見学,研究計画のコンサルテーションを受けることができた。 (2)パイロット・スタディは現在2例が終了,1例が中断,1例が4月から介入実施予定である。中断となった1例は併発症状が大きく,またScahill教授のコンサルトで示された点数と比較してチック症状得点が高すぎることが特徴であり,Inclusion/exclusionの基準の精緻化が課題となった。終了した2例のうち1例は十分にチック症状が改善しており,もう1例はどちらかというと強迫症状の改善が見られた。両者とも,チックによる社会生活への支障は改善している。また,質的な面接内容の検討の結果,両者ともに自己効力感の向上(「今まではチックを抑えられると思わなかった」「今までやってきた対処がもとになっていて,どうするかがつかめた」など)がみられた。以上の結果を受けて,(1)引き続きチック症状への介入を徹底すること,(2)自己効力感や自尊心など本人の内的な変化を表すアウトカム評価ツールの検討,(3)評価者の養成,が次年度の課題となった。 (3)平成22年度までに収集してきたデータを再分析した上で,現在2つの論文を投稿中である。1つの論文は学校の教員を対象とした研究の結果をまとめたものである。対象者は45名と少ないものの,「チック=意識化させてはいけない」という定式から,「本人の捉え方」や「周囲への影響」によっては,チックを取り上げた個別の対応が必要であることをデータから示した。現在教育心理学研究に再審査・再投稿中である。 もう1つは,家族を対象とした質的研究であり,トゥレット症候群患者の母親が,「違和感を抱く」「症状に戸惑う」「症状と向き合う」「見守る」というプロセスをたどることを示すと同時に,慢性的な戸惑いを抱いていることを明らかにした。こうした時期に合わせた心理学的な関わりが重要だと示唆することができた。現在,雑誌「臨床心理学」に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
9の欄で書かれたように,本年度の目的は(1)介入研究を実施するための体制作り,(2)パイロットスタディの実施,(3)今までの環境調整に関わる論文の学会誌への投稿であった。それぞれの目的に応じて一定程度研究を実施することはできており,平成24年度に介入研究を実施するための下地は整ってきたと考えられる。その一方で,予備的な検討のリクルートはサンプルサイズは予定していたよりも少なく,計画以上に進展しているとは言い難い。以上から,「おおむね順調に進展している」という評価が適切だと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度より,無作為化した介入効果研究を実施予定である。5月13日のトゥレット協会による医療講演会にて研究について講演する機会を得たため,研究参加者のリクルートメントの成功する確率は高くなると考えられる。夏休みは定期的な通院がしやすい期間であり,7-8月からの介入開始を予定している。 Scahill教授との研究ディスカッションの中では,本研究計画の実現可能性の低さが大きな問題だと指摘を受けた。有病率が低く,併発症も多くみられる重症チック障害患者を我が国の単一機関で集めることは困難であり,研究計画を少数例でもより厳密なものに変更する必要性があることを指摘された。以上を受けて,本研究のデザインとして,10名程度で,無作為化,ブラインドでの比較をするシングル・ケース・デザインを採用することとした。本研究の一番の目的である本邦で初の重症チック障害患者への認知行動療法の効果を検討することはこのデザインを変更しても達成できると考えられる。
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