2011 Fiscal Year Annual Research Report
「学力」に関する経験的・歴史的検討―「標準化/非標準化」という区別に着目して
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11J11023
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堤 孝晃 東京大学, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 学力観 / 能力観 / リスク社会学 / 教育社会学 |
Research Abstract |
本研究は、「学力観」に関する多角的な社会学的検討を目指すものである。この目的に従って、本年度は(1)理論的検討、(2)経験的検討、(3)歴史的検討を行なった。それぞれについて概説する。 (1)理論的検討として、「学力論」へのリスク社会学からのアプローチという新たな枠組みの検討を行った。それは、「学力」が個人のなかに存在する実体というよりも、教育という制度の機能や責任をめぐる議論の中で構成されるものであることを明らかにする理論的枠組みである。これは、「学力論」を経験的・歴史的に捉えることを課題とする本研究の方法論でもあり、また「学力論」への新たなアプローチの提示として重要な議論である。 (2)経験的検討として、私立中高一貫校の教員に対するインタビュー調査の分析および2つの質問紙調査の二次分析を行った。インタビュー調査では、それぞれの学校の教師のもつ「学力観」が、学校の置かれた環境や目標などにより異なった様相をみせることを明らかにした。1つめの質問紙調査は大学生を対象とするもので、学生自身が自認する「能力と将来希望する家族のあり方との関連を明らかにした。「能力」自認および教育システムと、ライフ・プランとの間の相互規定的な関係の可能性が示唆された。2つめの質問紙調査の分析は、都立高校の生徒を対象としたもので、「レリバンス」意識について検討している。「学力」の内容に関して、従来のレリバンス論の想定する認識枠組みに対し再考を促すものとして意義がある。 (3)歴史的検討として、教育社会学における議論の再検討を行った。そこで見出されるのは、教育社会学の自己規定および反省のあり方である、1980年代以降、教育という事象に対するスタンスは複数の可能性がありえたが、全てが十分に展開されることはなかった。こうした複数のスタンスの拡大と縮小は、教育社会学の「学力論」の論じ方を分析する際のあり方として重要な知見となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた調査対象校に関する都合の関係で、本年度に予定していたインタビュー調査の実施を次年度へと変更した。計画していた作業の順序が逆転したぶん、本年度は理論的検討・経験的検討・歴史的検討といった多角的な検討をそれぞれ並列的に進めており、すべての面で一定の進展を得ること演できた。また3点の検討全てが、次年度のさらなる検討の基礎となるものでもあり、次年度との継続性という意味でも意義がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に行った理論的検討を基礎に、経験的・歴史的検討として、インタビュー調査の実施・分析および「学力論」の学問的資料の分析を、さらに深化させていくことが基本的な方針となる。そこで新たに、2校の教師を対象にインタビュー調査を行い、一方で戦後から1970年代までの学問的資料を分析する。双方とも、本年度の検討から得られた知見をもとに、その差異に着目する形で分析をすすめることで、より有益な知見を引き出せるものと考えられる。
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Research Products
(3 results)