Research Abstract |
本研究は,主に認知症患者を対象とした音楽療法システムの開発を目的としている.システムは,対象とする症状を発した患者の状態をもとに,音楽を生成・提示する.本年度はまず,開発したシステムを,常同的に言語を発する症状をもつ認知症患者に試用するケーススタディを行った.前年度のケーススタディで得られたデータとともに,患者の発話の変化を分析した.その結果,システムから音楽が提示されている時と,提示されていない時とでは,発話の変化が異なることがわかった.この結果から,患者が,常同的に言語を発しているときに,システムから提示した音楽に興味が移行していることが示唆された.得られた結果について,国際会議で発表し,ベストペーパーアワードを受賞した.また国内学会の英文の論文誌に採録された. 次に,患者がシステムから提示される音楽に対して,さらに興味を持ち,症状が一時的でも緩和されることを目的に,システムのインタフェースや機能の拡張について研究した.インタフェースについては,小型のワイヤレススピーカを箱で覆い,大正時代柄の布を貼り付けたものを準備した.このような柄に対して,患者が懐かしく感じ,興味を引くと予想した.しかし,自分の目の前に物を置かれることに,不快感を示したため,効果はなかった.次に,システムの機能を拡張して,健常の大学生を対象とした比較実験を行った.今回は旧型のシステムと明らかな差異は見いだせなかったが,この拡張した機能により,次の効果が得られると期待する.1つは,発声を繰り返す患者の感情に合う音楽が提示されたと,患者は感じる可能性が高いこと.2つめは,これまでよりも,さらに音楽へ注意が向くようになり,繰り返しの発声が一時的でも停止する可能性があること.3つめは,患者が自然に歌を歌うことへと導かれる可能性があることである.次年度は,機能を拡張したシステムの有用性について,健常者,認知症患者を対象とした実験により示す.
|
Strategy for Future Research Activity |
機能を拡張したシステムの有用性について,健常な学生を対象とした実験,及び認知症者を対象としたケーススタディを行う予定である.現在は,千葉の医療機関の協力を得て,認知症患者を対象としたケーススタディを行っているが,遠方のため,毎週のようにデータを記録することができない.現在,佐賀県,福岡県内で,協力してくれる医療機関をあたっている.
|