2011 Fiscal Year Annual Research Report
高信頼社会は幸福か―信頼の機能と社会階層の実証研究―
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11J56092
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
稲垣 佑典 東北大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 信頼 / 社会的ジレンマ / 信頼ゲーム / z-tree |
Research Abstract |
グローバル化・流動化の進展により、現代社会では社会的不確実性と機会費用が増大している。このような状況下では、見知らぬ他者に対する信頼感を高く持つことが、より適応的であるとされている。また、高信頼者は多くの認知的資源を投資することで信頼性の欠如を示す情報に注意しているため、裏切りに敏感で、裏切りを働く者との関係を即座に解消可能であることが検証されてきた。 しかし、裏切りに対して関係の即時離脱や多量の罰を与えるという反応は、場合によっては効果的でない可能性がある。なぜならば、現実社会における関係は自らの意思に関係なく長期的に継続するものも多数あり、そこで多量の罰を与えるといった行為は相手の態度を硬化させ、一層困難な状況を招く可能性があるためである。そこで、本研究では実験を通じて、信頼と賞罰の方法、および賞罰の量の関係を見ることにより、高信頼の逆機能の可能性について検討した。本研究のように、必ずしも高信頼が有効に働くと限らないことを検討した研究はこれまで行われておらず、研究の遂行により信頼理論の発展に貢献することが期待される。 被験者は東北大学の学部生・大学院生100名であり、経済実験ソフトz-treeを通じて、2人ペアを組みポイントを委託/分配し合うという信頼ゲームの形態をとる取引を行った。なお、この取引は、終了時点が被験者に分からないような操作を施した上で、3回継続して実施された。また、実験後に信頼感や公平感が質問紙によって測定された。 単純集計の結果から、高信頼者は2回目の取引において、取引相手へポイント委託量を減らすのではなく、多量の罰を与える傾向が見られた。これはゲーム理論の中でTit for two tats戦略として知られる方略と類似した反応傾向であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東日本大震災の影響により、大学が閉鎖されるなどしたため、実験の実施に遅れが生じた。そのため、現段階では得られたデータの分析が十分に行えていない。従って、信頼の逆機能の研究については、次年度も継続して実施していく予定である。ただし、上記のような状況の中でも、100名という多くの被験者を集めて実験を遂行できたことは、評価に値するものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、実験データを多変量解析によって詳細に分析し、本研究の研究目的である信頼の逆機能について検証を行っていく。なお、本来の研究予定には無かったが、昨年度は東日本大震災における復興と信頼の関係や、住民の信頼感の推移について調査を実施した。これに関して次年度は第2波調査を実施して分析する予定である。また、従来の研究計画にあったように、次年度は世界価値観調査などをはじめとする社会調査データを用いて、信頼感と幸福度の関連についての研究も推進して行きたい。以上のように研究を進めていくことで信頼感の逆機能のみならず、包括的な機能やその生成過程についても検討して行く予定である。
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Research Products
(2 results)