Research Abstract |
脳血管性痴呆とりわけ脳内動脈硬化との関連が注目されている脳深部白質のび漫性不全軟化を伴う痴呆例における,脳の病変を支配する脳内細小動脈を,血行力学と壁形態との関連から,モルフォメトリー的さらに三次元立体化による病変分布の解析を試みた. <研究方法>脳血管性痴呆と診断され,剖検時に頚動脈より灌流固定を行った26症例を用いた.脳病変を確認し,脳表動脈を検索後,脳表から病変部までに至る脳内動脈を脳組織とともに5mm間隔で切り出し,各動脈の垂直横断面の光顕標本を作製し,免疫組織学的染色を施した.さらに立体構築化用に連続切片を作製した.これらの標本について,立体化画像解析ソフト(OZ)を用いて,形態計量計測を行い、内・中膜の壁厚,内径,内腔,内・中膜の各面積を算出し,各値の相関性すなわちリモデリング反応について検討した.さらに中膜を主眼に壁の筋細胞の減少度や線維化の内容につき検討を加え,脳内各部位における病変の差異,三次元的病変の分布について検討した. <結果・考察>大脳白質深部病変を支配するのは皮質枝系髄質動脈(MA)と穿通枝系動脈(PA)とがあり,MAの脳内動脈病変は(1)白質病変内の高度線維化と,(2)近位側部位の中膜壊死の2大別され,後者の中膜壊死は,三次元立体化による解析では,皮髄境界で屈曲する部の前後とくに屈曲直前部に病変が高度であった.またPAにおける高度病変は分岐部付近に多く,血行力学的関与が示唆された.さらに,白質病変内の高度な線維化は,動脈,毛細血管,静脈と一連して見られ,collagenI,III V型を中心にIV,VI型も含む多彩な線維化からなり,高度な内腔狭窄を示した.CD68陽性細胞の分布をみると,大脳皮質側に比べ,脳深部の細小動静脈周囲には分布が少なく,とくに線維化が強いとわずかで,老廃物除去能の低下が示唆された. 血管病変の機序には中枢側の中膜壊死と線維化による血行力学的ずり応力および壁張力など血行力学的機能失調が,痴呆との関連が深い白質病変の原因としては,高度線維性肥厚による血液・脳実質間の物質輸送障害やクリアランス障害が重要とみなされた.
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