2001 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀前半イギリスの福祉国家形成をめぐる国内・国際問題の社会経済思想史的研究
Project/Area Number |
12730014
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
江里口 拓 愛知県立大学, 文学部, 助教授 (60284478)
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Keywords | ナショナル・ミニマム / 福祉国家 / イギリス / 社会保険 / 救貧法 |
Research Abstract |
平成12年度に引き続き、13年度もウェッブ夫妻の社会経済思想についての研究を進めてきた。特にその福祉国家構想について,「コレクティヴィズム」(団体主義)と「ナショナル・ミニマム」との関連について,19世紀末イギリスにおける「社会進化論」のウェッブへの影響を,彼らによる「進歩」と「退化」との区別をもとに考察した。結果,彼らの社会改革構想は、「進歩」をゆだねる様々な中間団体と,「退化」を防止するための国家権力によるナショナル・ミニマム保障という二重構造を有することを明らかにした。さらに,引き続いて,20世紀初頭における「救貧法に関する王立委員会報告」(1909年),「リベラル・リフォーム」(1909-11年)をめぐって提出された,社会保障をめぐる様々な政策思想の比較研究を行った。特に,『多数派報告』の著者として知られるボーザンケト,『少数派報告』の著者ウェッブ,「リベラル・リフォーム」を背後から支えた,J.A.ホブソン,L.T.ホブハウス,および職業紹介所の設立に貢献しつつ,後に『ベヴァリッジ報告』を執筆するW.H.ベヴァリッジ(初期)の福祉政策思想を整理した。この結果,ボーザンケト,ウェッブともに福祉受給者である個々人への介入を是としており、両者の差異は、その介入主体が民間組織・慈善であるか、(ボーザンケト),国家・自治体であるか(ウェッブ)の違いにあることを明らかにした。一方,ホブソン,ホブハウス,ベヴァリッジにおいては、「マインドの進化」,「合理的経済人」の育成とその条件整備が追求されており、個々人への介入を回避する代わりに.社会保険などの権利性の強い社会保障構想を提示したことを明らかにした。さらに、今後の課題として、これら多数の論者の福祉政策(国内政策)は,あくまでイギリス国民経済の対外的なパフォーマンスをめぐっての認識とも密接に結びついていたことを自己の問題として再確認した。具体的には,同じく自由貿易主義を標榜するウェッブ,ホブソンにおいても,前者は,マーシャル的な競争力育成という観点、後者は金利生活者への批判、および所得再配分(帝国主義批判)といったフレームワークを有していることを確認した。
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Research Products
(3 results)
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[Publications] 江里口 拓: "ウェッブにおける社会進化とコレクティヴィズム-世紀転換期イギリスにおける福祉社会の構想-"社会福祉研究 愛知県立大学文学部社会福祉学科. 3・1. 1-14 (2001)
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[Publications] 江里口 拓: "イギリス福祉政策思想史-20世紀初頭における貧困・失業をめぐる諸思想-"経済学史学会年報. 40. 13-23 (2002)
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[Publications] 江里口 拓: "労働組合運動と「産業進歩」との調和的連携-ウェッブ『産業民主制論』-"ポリティーク. 3. 216-222 (2003)