2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J00069
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
木村 涼 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員PD
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Keywords | 七代目市川團十郎 / 信州川路興行 / 関島家資料 / 伊達家資料 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度に引き続き、七代目團十郎が興行に訪れた地域の諸機関に赴いた。具体的には、大阪府立中之島図書館、広島県立文書館、広島県立歴史博物館、岐阜市歴史博物館、岐阜県図書館、名古屋市蓬左文庫において、芝居番付や評判記、『御用留』など関連資料の複写・収集と内容分析に努めた。 七代目團十郎と地方の人々との結びつきを究明していく過程で、前年から始めた静岡県富士市の伊達家所蔵の七代目及びその家族から送られた書簡の調査、内容分析を進めた。芝居以外の内容も多く、七代目の好物の納豆で漬けた秋茄子や駿河湾の興津鯛を送ってくれるように依頼している書状など新たな発見があった。これは、今まで明らかにされていなかった七代目の食の好みがわかる興味深い書状であった。 また、早稲田大学演劇博物館へ寄贈・寄託された関島家所蔵の七代目の信州川路興行についても調査を進めた。大庄屋の関島家には、七代目が認めた約5メートルにわたる巻紙の書状が遺されていた。この書状について、これまでにその一部は知られていた。しかし、江戸歌舞伎の顔見世興行には1250両掛かるが金主がいないので、半分を出してほしいなどと具体的な金額が知れたのは初めてであり、芸能興行史研究において重要な事実が示された。さらに書状後半部には芝居小屋が火災に遭い、木場へ逃げ去る七代目一家の様子が克明に記されていたが、この火事が芝居小屋の猿若町移転へとつながるのである。 そして、本年度最大の成果は、『七代目市川團十郎の史的研究』(吉川弘文館、2014年2月)の刊行である。本書は、2011年3月に法政大学大学院人文科学研究科より博士(歴史学)の学位を取得した論文を基礎として、これに修整を加え編集したものである。七代目と贔屓や成田山との関係、風俗取締政策に焦点をあて、従来の研究にはない社会史的アプローチを試み、江戸社会における七代目の人物像を浮き彫りにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
静岡県富士市の伊達家所蔵の七代目團十郎の食に関する好みを伝える新たな書簡類を発見したことが、2013年7月1日付の讀賣新聞の夕刊に「グルメな七代目団十郎」と題する記事となり、筆者の調査で明らかになったことが紹介された。また、信州関島家資料では5メートルの書状の内容全体を、筆者が詳しく解読したとして、2014年1月22日付の讀賣新聞の夕刊に「七代目団十郎 金策の書状」と題する記事が掲載された、これまでの七代目團十郎研究では明らかにされていなかったため、これらの成果は、予想以上のものであった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今まで収集してきた七代目團十郎が訪れた興行地域の資料を分析し、順次学会報告を行ったり、学会誌に成果を発表していく予定である。また、これまで収集しきれなかった資料については再度把握した上で、資料機関を訪れ関連資料の撮影・複写をする。そして、内容を分析し、これまでの成果に接合させて七代目團十郎の地方興行の全貌を解明していく計画である。
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