2012 Fiscal Year Annual Research Report
負荷付き自発運動が成体海馬の神経発達に及ぼす影響の神経化学的研究
Project/Area Number |
12J00633
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
イ ミンチョル 筑波大学, 大学院・人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 負荷付き自発運動 / 認知機能 / 脳由来神経栄養因子 / 海馬 / 神経新生 / 仕事量 |
Research Abstract |
輪回し運動が海馬に神経栄養因子(BDNF, brain-derived neurotrophic factor)を誘導し,神経新生や認知機能を高めることが知られる.この効果は走行距離に依存するものの,運動強度などいかなる運動条件が有効かはいまだ決着をみない.本研究では,下肢速筋の肥大を促す負荷付き輪回し運動装置を用い,走行距離よりも力型の仕事量を高める運動が海馬に関連した認知機能を高めるかどうかを検証することを目的とした. 実験には成熟した雄ラットを用い,個々に体重当たり30%の負荷付き自発運動(RWR),ならびに負荷無し自発運動(WR)を4週間行わせ,以下の3つの実験を検討した.実験1では,RWRの走行距離がWR群の53%を示す一方,仕事量は8倍に増加.更に,速筋型の足底筋の肥大やミトコンドリア酵素活性(CS)が増加することなどからRWRの妥当性を確認した.また,RWRが海馬のBDNFや情報伝達因子の遺伝子発現を有意に増加させることを確認した.実験2では,RWRが海馬に関連した空間認知機能やBDNF作用へ効果をもたらすかどうかを検討し,RWRが記憶再認テストにおける成績を向上させるとともに海馬のBDNFやp-CREB蛋白質を有意に増加させ,空間認知機能の向上に関与することを明らかにした.実験3では,RWRが空間認知機能を担うとされる海馬の神経新生を増加させることを確認した.本研究により仮説が検証され,自発走では,適度な負荷をつけて総仕事量さえ高めれば,たとえ走行距離が短くとも,海馬のBDNF作用を介して神経新生や空間認知機能を高めることが明らかとなった.走行距離だけでなく高い負荷(仕事量)条件も,海馬の神経脳可塑性や認知機能を高める要因となりうることが初めて示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この研究は,今,国際的に大きな注目を集める,"運動が認知機能を高める効果"に新たな視点を与えるものとして高く評価できる.すなわち,自発走では,適度な負荷をつけて総仕事量さえ高めれば,たとえ走行距離が短くとも,海馬のBDNF作用を介して神経新生や空間認知機能を高めることが明らかとなった.これは走行距離だけでなく高い負荷(仕事量)条件も,海馬の神経脳可塑性や認知機能を高める要因となりうることが初めて示唆された。さらに,研究が進めば,海馬の可塑性を高める要因として,新たに"力"の要素を加えることができ,今後,自発的に短時間で行う筋トレーニングが海馬の可塑性を高めるなど,脳機能を高める新たな運動処方開発に道を開く可能性が期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
負荷付き自発運動はより短い走行距離でも仕事量を高めることで,速筋型の筋肥大やBDNF及び情報伝達因子の遺伝子発現を増加した(実験1),さらに,海馬空間認知機能や海馬神経新生を高め,その一因として,海馬BDNF signalingを関与することが明らかとなった(実験2・3).この現象は何を意味するのだろうか?そこで,今後の研究では,負荷付き自発運動の効果をその分子基盤の網羅的解析や脳内モノアミンの分析から解明する.これにより,運動効果をより高める条件が明らかとなりされ,海馬機能を高めるための負荷付き自発運動プログラムの開発が可能となる.これは,内容の斬新さと筋力トレーニングの新たな付加価値を示す点からも意義深い.
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Research Products
(8 results)