2012 Fiscal Year Annual Research Report
初期読本成立史の再構築-近世日本における唐話学の展開および白話文学の受容と創作-
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12J00832
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
丸井 貴史 上智大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 都賀庭鐘 / 英草紙 / 今古奇観 / 雷峰怪蹟 / 二人称表現 / 白話小説 / 初期読本 |
Research Abstract |
以前から調査を進めてきた、中国白話小説『今古奇観』(短篇白話小説集「三言二拍」の選集)の諸本間における異同を、都賀庭鐘の読本『英草紙』と照らし合わせることにより、庭鐘が「三言二拍」と『今古奇観』の校合を通して作品の翻案を行っていたことと、庭鐘が利用した『今古奇観』は同文堂という書肆から刊行された刊本である可能性が高いことを明らかにした。その上で、庭鐘にとって原話の校合は諸本間におけるテクストの差異性の発見であり、それを踏まえた翻案は原話の批評行為に相当する営為であると論じ、そのような創作方法からは、白話小説という新しい材料を得ることによっていかなる新しい文芸を生み出すことができるかという庭鐘の問題意識が窺えると結論づけた。この内容は日本近世文学会春季大会において口頭発表し、『近世文藝』97号に掲載された。 また、上田秋成『雨月物語』に収められている「蛇性の婬」の原話のひとつである「雷峰怪蹟」の翻訳を行い、「「雷峰怪蹟」試訳(下)」として『金沢大学国語国文』38号に発表した。この作品の翻訳の前半部はすでに同誌37号に発表済みであり、これはその後半部分である。 その他、近世小説の二人称表現について広く調査し、特に読本における用法と機能についての分析を進めた。それにより、読本に多用される「〓」は白話小説由来のものであること、二人称表現に附される読み仮名には多様性があったということなどが明らかになり、読本における白話小説受容の一端を提示することができた。さらに『英草紙』第六篇を、二人称表現の用法に注目しながら作品論的に分析した。この内容はいまだ論文化していないが、学会・シンポジウム等における口頭発表はすでに行っており、近く論文として公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究計画における最重要課題は達成することができたが、それに多くの時間を費やしたため、その他の課題について論文化することが遅れている。収集したデータの分析に予想以上に時間がかかっていることも原因のひとつである。ただし、調査自体は進展しているので、今後も継続して分析を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
初期読本の嚆矢である『英草紙』と白話小説の関係についての見取図を描くことができたので、今後は初期読本成立の前提となる白話小説の受容形態について考察を進める。特に、白話小説の訓読である「和刻三言」、訓訳本である「通俗物」、さらに日本人の手になる白話文学についても検討したい。これらの分野は、当時の中国語学習である唐話学とも密接に関係しているため、その関連も視野に入れながら考察を進める。 また、読本の作品研究も白話小説との関わりに注目しながら進める。その中心となるのは都賀庭鐘だが、その他の白話小説を受容した作家にも目を向けていく。
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Research Products
(6 results)