2013 Fiscal Year Annual Research Report
初期読本成立史の再構築-近世日本における唐話学の展開および白話文学の受容と創作-
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12J00832
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
丸井 貴史 上智大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 今古奇観 / 都賀庭鐘 / 英草紙 / 白話小説 / 和刻三言 / 岡白駒 / 沢田一斎 |
Research Abstract |
江戸時代においては多くの白話小説が受容され、日本の文学に大きな影響をもたらしたが、特に『今古奇観』の影響は多大であった。そこで本年度は『今古奇観』について、これまでに収集していた書誌データを整理するとともに、日本所在の諸本の本文調査をおこなった。その結果、①『今古奇観』諸本の書型は大型のものと小型のものとに大別されるが、成立が先行しているのは前者であるということ、②本文は大型刊本のうち最も遅く成立したとみられる同文堂本によって改変され、それが小型刊本に受け継がれたことを明らかにした。また、本文の異同と図の形態に基づき、諸本をさらに細かく系統分類することで、『今古奇観』諸本に関する大まかな見取図を描くことができた。この研究結果は、論文「『今古奇観』諸本考」として、『和漢語文研究』11号に発表した。 また、昨年度から二人称表現に注目して読本の文体を論じる試みをおこなってきたが、本年はそれを都賀庭鐘『英草紙』の作品論に反映させることを試み、第33回日本文学協会研究発表大会において口頭発表した。二人称表現が言語学的観点から検討されることは従来からあったが、作品論的観点からのアプローチはほとんどなかった。本研究により、都賀庭鐘の文体意識や、創作上の工夫などがより明らかになることが期待される。 さらに、短篇白話小説集「三言二拍」の訓訳本である「和刻三言」(岡白駒『小説精言』『小説奇言』、沢田一斎『小説粋言』)の三作における訓読法を検討した。規範的な漢文訓読法による訓読には限界があると言われる白話小説であるが、江戸時代の人々はこれをやはり訓読で読んでいた。その方法を具体的に検討することで、近世の人々がどのように白話小説の世界に接近しようとしていたかを探ろうとしたものである。この内容はすでに、ワークショップ「東アジア(日・中・韓)の絵入り刊本成立と展開に関する総合研究」において口頭発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の最重要課題であった『今古奇観』の諸本研究をまとめることができ、さらにその他の研究についても論文の投稿はやや遅れているが、だいたいの見通しはついている。ただし、初期読本そのものの作品研究や、白話小説受容の総合的研究などは、来年度の課題として残されている。
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Strategy for Future Research Activity |
都賀庭鐘・上田秋成等、初期読本を代表する作家の作品研究は本研究課題の到達目標でもある。『英草紙』『雨月物語』を中心に現在検討を進めており、それを論文化することが課題である。また、近世において唐話学を広めた岡島冠山の業績は、初期読本の成立にも影響を与えたはずだという仮定のもと、現在は『太平記演義』の読解作業を進めている。『太平記』を演義小説化し、それと同時に通俗物の文体に改めたという彼の営為は、『太平記』を文芸創作に利用するということそのものと合わせていかなる意味を持っているのかということを、明らかにしたいと考えている。
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Research Products
(4 results)