2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J01597
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大戸 達彦 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 第一原理計算 / 伝導計算 / 時間依存 / 電子格子相互作用 |
Research Abstract |
本研究では、時間依存の電気伝導を第一原理的に取り扱うためのプログラムの開発を行った。そのためには、電子の時間発展とその電極への緩和を記述するアルゴリズムを実装する必要がある。本年度は、電極中での電子の散乱を表現するために必要な、電子格子相互作用行列を求めるプログラムをSIESTAに実装した。このプログラムでは、微小な原子の変位に従ってハミルトニアン・重なり積分の差分を行い、基準振動方向に射影することで電子格子相互作用行列を求める。このルーチンは単独でも様々な物理量を求める上で有用であるため、これを用いて以下の二つの応用計算を行った。 一つは、Cu(111)基盤上に吸着したCs単原子膜のコヒーレントフォノンの緩和である。緩和機構として表面での電子正孔対生成による緩和と、基盤のフォノンとの相互作用による緩和が考えられる。前者は、電子格子相互作用行列から第一原理ベースで求めることができる。計算の結果、前者の寄与は後者に比べて非常に小さく、無視できることを定量的に明らかにした。 二つ目は、Cu(001)基盤上に吸着したMelamine単分子のプロトン移動によるスイッチの解析である。水素の配置によって伝導度に差が生じるため、スイッチ頻度を実験で求めることができるが、ミクロなスイッチ機構は明らかになっていない。電子格子相互作用行列から非弾性トンネル電子分光の信号を計算することができるため、実際にどのような振動モードがスイッチに関わるか、第一原理計算から調べることができる。計算の結果、スイッチ反応座標方向の振動モードが選択的に励起されることを確かめ、また一次元のポテンシャル井戸中での振動励起によって反応の近似をしてよいことを確かめた。最終的に、モデルに必要なパラメータをほぼすべて第一原理計算から求め、スイッチ確率を再現した。 最後に、電子の時間発展から時間依存の伝導を取り扱うのではなく、断熱的な原子核の時間発展に対して電子の効果を摂動として取り込む手法も有力であると考えられる。その観点から、分子動力学シミュレーションについて知見を得るべく、酸化チタン・水界面のシミュレーションに取り組んだ。このような、構造の自由度の大きい固液界面を取り扱うためには古典力場が適しているが、半導体と水の相互作用を記述する力場には分極の効果が入っていない。そこで、第一原理計算から半導体の分極を計算し、その結果をもとに効率的な古典力場を構築する手続きを開発し、酸化チタン・水界面のシミュレーションに応用した。計算結果からは、これまで分極なしの古典力場で見つかっている構造に加え、第一原理分子動力学シミュレーションで見つかっている水の配位構造を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
時間依存の伝導計算のプログラムについては、電子の時間発展についてはアルゴリズムが完成したが、原子核の位置を動かしたときに問題が発生しており、進展に遅れが出ている。一方、電子格子相互作用の計算を活用した計算からは期待以上の成果が得られたため、全体の進度は満足できる程度と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
時間に依存する電圧を印加するためには、周期境界条件下にあり、なおかつ充填されたユニットセルに電位差をかけるアルゴリズムが必要となる。一定以上の真空領域が存在すればポテンシャル面の断裂面を導入することで電位をかけることができるが、セルが充填されている場合、ベクトルポテンシャルを用いて電位をかける必要がある。この方法は平面波基底関数では実現されているが、局在型基底関数ではベクトルポテンシャルの扱いに困難があり、まだ報告が見られない。この問題について、今後アルゴリズムの問題を解決する必要がある。
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Research Products
(7 results)