2012 Fiscal Year Annual Research Report
有限密度格子QCDシミュレーションによるQCD相図の解明
Project/Area Number |
12J02368
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
齋藤 華 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | クォーク / 有限温度 / 有限密度 / 数値シミュレーション / 相構造 / 臨界点 / モンテカルロ法 / 格子シミュレーション |
Research Abstract |
申請者は,有限温度有限密度クォーク物質の相構造の解明を目的として,モンテカルロ法に基づく数値計算を行なった。相構造とは,温度や密度による様相の変化を系統的に示すもので,相構造を解明するためには,相転移次数を理解する必要なあり,特に,連続的な変化によって移り変わる場合(クロスオーバー)と,大きな変化を伴う一次相転移の境界となる臨界点を特定することが重要である。本研究では,ヒストグラムによる相転移次数の区別方法を用い,さらに,再重み付け法と呼ばれる数値解析法を組み合わせて,この相転移次数の解析方法を改良した。また,これらの方法を有限密度領域に応用した。有限密度へ応用するために,ここでは,キュムラント展開と呼ばれるもの(指数関数の期待値を,期待値で表される関数を指数関数の肩にのせたもので表す展開)を取り入れた。これらの手法を用いることによって,クォーク質量が大きい領域において,有限密度での臨界点を特定した。また,結果を複素化学ポテンシャルを用いた結果と比較し,定性的に妥当な結果が得られていることがわかった。以上の結果から,これらの手法が有効であることが確認できた。 より現実の状況に近いのは,クォーク質量が小さな場合であり,この物理的な状況では,モンテカルロ法を元にした有限密度QCD(クォーク間に働く相互作用を記述する理論)の格子シミュレーションにおいて懸念されている符号問題は,より深刻であると考えられている。本研究では,符号問題は深刻ではないクォーク質量が大きい領域での解析を行なったが,この研究で用いたキュムラント展開による解析方法等は,符号問題解決に向けた新たな試みとして,重要な研究であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究分野の動向として,より物理的なクォーク質量が小さい領域における相転移次数の解明が求められるようになり,それに検討に取り掛かっているため,研究の進捗が全体的に遅れている。また,再重み付け法に有効範囲を特定する方法を検討する必要が新たに発生し,この議論を行なっているため,遅れが生じている。さらに,熱力学的な性質を調べるための状態方程式の計算を研究に取り入れており,そのための準備に時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
数値解析に用いられている再重み付け法は,格子QCDシミュレーション分野では広く用いられており,有限温度有限密度QCD分野に限らず,広く注目されている手法である。まずは,この方法の有用性の確立を目指した。また,今年度より取り入れた状態方程式の計算に,この再重み付け法を取り入れ,研究を推進していきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)