2012 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯域における対流に伴う重力波の励起,伝播,及び中層大気における気候影響
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12J02641
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
土屋 主税 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 気象学 / 成層圏 / 大気重力波 |
Research Abstract |
まず、重力波の励起源としての対流圏下層の前線の過去33年間の長期トレンドを明らかにする研究を行った。前線は水平スケールの小さな現象であるため、長期間の均質なデータである気候再解析データから直接求めることができない。そこで、前線の出現頻度を推定するため、気候モデルWACCMで用いられている前線を励起源とする重力波のパラメタリゼーションのうち、励起源としての前線の位置を診断する手法を用いた。この結果、前線の出現頻度のトレンドの地理的な分布は、対流圏上層のジェットの強さのトレンドの分布と似ていることが明らかになった。この結果を詳しく検討すると、前線の出現頻度とジェットの強さのどちらも対流圏中層の温位勾配の強さに依存するため、両者のトレンドが同様の地理的分布を示すことがわかった。また、重力波が担う中層大気、超高層大気への運動量輸送の、重力波が励起される高度における特性を、同じ重力波パラメタリゼーションを用いて計算した。その結果、重力波のパラメタリゼーションにおける運動量輸送の定式化における人工的な調節パラメータのうち、特に、運動量輸送の大きさが前線の方向に依存するかどうかについて、観測事実に基づいた適切な制約が必要であることが示唆された。 次に、対流や前線などの非地形性重力波の水平伝播特性を明らかにするため、成層圏における温度の水平高分解能データの解析を行った。解析には、NASAによって打ち上げられたAqua衛星に搭載されている二酸化炭素による赤外放射を測定するセンサーAIRSによって観測された温度データを用いた。初期的な研究によって、一次元ウェーブレット変換の一種であるS変換を用いて、衛星により観測された温度の水平分布にパケットとして局在している重力波の水平波長、波数ベクトルの向き、振幅を求める手法を開発した。この手法により、前線や積雲対流が、どのような伝播特性を持つ重力波を励起するかなどを次年度解析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
解析に用いている最新の衛星データは水平解像度が良いものの、ノイズが大きく、大気重力波のシグナルを取り出すための工夫に時間がかかったため、やや遅れている。しかし、今年度開発した手法により、来年度は重力波の水平伝播特性に関する解析が進展すると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度開発した重力波の水平伝播特性を抽出する解析手法を用いて、重力波の平均伝播方向を推定する。また、熱帯の対流活動の変動に伴う重力波振幅の変動に着目した解析を行う。
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