2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J02673
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 結美 北海道大学, 大学院・法学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 遺伝子例外主義 / 個人情報保護 / 遺伝情報 / 刑事法 / 保護法益 / 刑罰 |
Research Abstract |
今年度は、2012年9月上旬にフランスとオランダに渡航し、遺伝情報と法律の関係についての資料・文献を収集した。本研究課題は、遺伝情報が他の一般的な個人情報に比して特別な性格(本人の健康状態・精神状態といった幅広い情報を含むこと、本人のみならず、家族にも関わること等)を有するものであり、それが侵害された場合の重大性も、他の一般的な個人情報に比して深刻なものになり得るという「遺伝子例外主義」の考え方を前提とするものである。そこで、今年度は遺伝情報に関する資料収集を行うと共に、イギリス・フランス・ドイツにおける個人情報一般に対する刑事法保護の現状について文献・資料調査を行うことによって、各国における遺伝情報の法的位置づけと性格について相対化を試みた。これらの調査により、イギリス・フランス・ドイツの法律はその条件等に差異はあるものの、無権限者による個人情報の保有や開示といった行為につき罰則を設けており、裁判例も多数あること、現在でも法定刑の引き上げの必要性についての議論が主にイギリスでなされたこと等から鑑みて、個人情報の侵害に対して刑罰を用いるということについての法的関心が各国にあることが判明した。各国が遺伝情報の侵害についても何らかの罰則を設けていることの前提には、個人情報一般に対するこのような法的関心があり、日本法に比して、刑罰を用いることについての抵抗感が薄いことがあるという結論が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
遺伝情報への様々な侵害行為に対して刑罰を用いることの妥当性の前提には、「遺伝子例外主義」の考え方がある。遺伝情報の窃取や売買等の行為に対して刑罰を設けている諸外国の法律は、「遺伝子例外主義」の考え方に立脚し、他の一般的な個人情報と遺伝情報を区別している。一方で、日本法では遺伝情報以前に、個人情報の窃取や売買等の行為を直接的に処罰する規定が存在しない。そこで、遺伝情報に対する妥当な保護の在り方を検討するための序論的考察として、個人情報を刑法における保護法益とすることの可能性と限界について検討する必要が生じる。昨年度はこの総論的考察のためにイギリス・フランス・ドイツの個人情報保護法からの知見を得て、本論への基盤を形成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、個人情報一般に対する法的保護について得られた知見を土台に、「遺伝子例外主義」の考え方を精緻化する。その上で、遺伝情報の侵害行為に対して刑罰を設けている諸外国の法律と議論を参照し、日本法における遺伝情報保護の妥当な在り方について立論する。
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Research Products
(3 results)