2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
12J03889
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
殷 ギョウ星 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 近世東アジア / 中国徳教書 / 庶民教化 |
Research Abstract |
今年度、中国徳教書の一種である郷約思想と聖諭・聖訓をキーワードとして研究を行ってきた。日中韓の郷約に関する先行研究を踏まえつつ、徳川日本における中国郷約の伝播・受容・変容・活用状況を明らかにする研究の可能性と必要性について論証した上で、具体的な研究の段階へと入った。 まず、日本国内の文庫・図書館を訪ね、書籍目録・日記などの史料から、徳川日本における中国郷約の代表物である「呂氏郷約」の伝来・刊行する実態を解明し、出版状況の整理、年表の作成を行い、それに基づいて、「呂氏郷約」及び一部のほかの中国の郷約の経典とされた書物が日本で伝播する過程を描き出した。一次史料の発掘に基づき、代官早川八郎左衛門の治世における「呂氏郷約」の活用状況を解明することができ、備中・備前・安芸を含む広い範囲において、中国郷約思想が果たした教化的機能を証明した。同時に、崎門派の著述を研究し、後期崎門派の代表的人物である稲葉黙斎による「呂氏郷約」講釈の解読を通して、原文と講釈筆記における同じ徳目に対する解釈の齟齬に注目し、それが産み出す原理の解釈に力を注ぎ、上総における中国郷約思想の導入・活用状況を分析し、その成果は論文としてまとめた。 一方で、清王朝時代に現れた郷約の新たな形である聖諭・聖訓の日本渡来・展開について研究を行った。清の聖諭・聖訓は明の郷約から発展したとされたが、その皇帝自ら頒布することによる強い権威・強制力、そしてそれを機能させるため作られた一連のプロパガンダ制度などから、明清郷約の質的差異が明らかであるため、その日本での伝播と活用に対する分析も、新しい視野が必要である。本研究は康熙帝『聖諭広訓』を中心としているが、先行研究はほぼ空白状態であるため、まず、日本国内各地に残存する史料目録などから、該当書物の伝来・刊行する実態を解明しようとした。版本の書籍目録を作成することによって、『聖諭広訓』の日本における流布状況及びその大坂懐徳堂を原点とし、全国へと展開する伝播の文脈を把握することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始からの二年度目に、前年度に引き続き、中国徳教書の一種である郷約思想と聖諭・聖訓をキーワードとして研究を行ってきた。計画通りに、徳川日本における中国郷約の代表物である「呂氏郷約」の伝来・刊行・受容する実態を解明し、学術論文としてまとめたが、史料が不足しているため、上記中国郷約思想を検討する際に、外来思想としての郷約と徳川日本特有の講組織の結合についての分析が行き詰まり、また社倉論と郷約論との関係に対する研究計画が具体化できていないという課題も出てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、次の面から研究課題を推進する。 1. 民衆宗教に関する研究を行い、講と郷約の関連性を解明する。 2. 懐徳堂朱子学を切口として、近世経世論と中国郷約思想との関連性を解明する。 3. 清王朝時代に現れた郷約の新たな形である聖諭・聖訓の日本渡来・展開について研究する。懐徳堂朱子学者の聖諭解読・講学に注目する一方、地方の治者による聖諭の受容に重点を置く。
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