2012 Fiscal Year Annual Research Report
現代フィジー社会における環境保護と伝統言説についての人類学的研究
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12J04381
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
浅井 優一 立教大学, 異文化コミュニケーション研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | フィジー / 儀礼 / 文書 / コスモロジー / 談話分析 / 環境保護 / 引用 / 憑依 |
Research Abstract |
本研究は、フィジー諸島のダワサム地域住民によって行われたFLMMA(Fiji Locally-Managed Marine Area)と呼ばれる環境運動の導入は、「保護の対象としての環境」という新知識/新秩序を受容することを通して、崩壊しつつある地域の「過去」を復元する行為として実現したことを示唆し、文化的文脈とは切り離されて研究・実践されてきたフィジーにおける環境保護と、文化的コスモロジーとの関連を明らかにすることを目的としたものである。2012年度は、このようなダワサム地域におけるFLMMA導入の背景を提供していた文化的コスモロジーに特化した論文の執筆に注力した。 当該論文は、1、20世紀初頭、フィジー植民地政府と先住民系フィジー人との間で行われた土地所有集団の登記作業に際して作成された文書と、2、ダワサム地域において、2010年4月に開催された最高首長の即位儀礼に際して発生した氏族間の政治的対立、以上2つの出来事の関係を、様々な談話・言語使用の言語学に立脚して考察した。そして、(1)植民地政府下で実行された文書編纂は、植民地政府の(顕在的)権威に依拠してフィジー社会を強く統制した出来事であったのに対し、(2)2010年にダワサム地域で生起した即位儀礼を巡る対立は、植民地期の文書によって生み出された(潜在的)権威の所在としての土地所有集団と、彼ら彼女らが実践する語りや儀礼が、改めて政府によって「引用」されることを通して、政府自体が存立可能となるような「相互引用の体制」、つまり、土地所有集団と政府の「憑依体」として存在する秩序が、今日のフィジーを特徴付ける文化的コスモロジーであると結論づけた。 以上の議論によって、これまでオセアニア人類学における中心的な議論対象となってきたフィジーの儀礼やコスモロジーに関する事象を、言語使用の詳細な分析を十全に取り入れて正面から扱った研究であり、その点で新たなフィジー研究を拓く成果を上げることが出来た点に意義が見出せる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2012年度は、現代フィジーにおける文化的コスモロジーに関する研究成果の執筆が加速度的に進行した。したがって、環境研究との接合に関わる部分の執筆を残し、当初予定をしていた論考の大半を執筆し終えることが出来たため。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、適宜フィジー諸島ダワサム地域での調査を実施する。そして、2012年度の研究成果によって示されたフィジーの文化的コスモロジーと、ダワサム地域で実践されている環境運動(FLN-MA)との関連性に焦点を当てた研究を遂行し、その成果を国内外での学会発表と論文投稿を通して公表する。
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Research Products
(10 results)