2012 Fiscal Year Annual Research Report
1980年代以降のアジアにおける女性キリスト者の思想形成-タイ北部を事例として-
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12J04739
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
藤原 佐和子 同志社大学, 神学研究科, 特別研究員DC2
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Keywords | キリスト教 / 神学 / タイ / ジェンダー / 思想史 / 宗教社会学 |
Research Abstract |
本研究は19世紀末期以来の宣教の中心地であり、現在のプロテスタント最大教派がその拠点を置くチェンマイとその神学校に関係する4名の女性キリスト者を文献研究の対象として取り上げている。特に研究が進んだのはチェンマイ、バンコクにおいて神学教育に尽力した聖書学者アラヤプラティープの思想分析である。彼女の思想に一貫するのは「真なる人間」をめぐる問いである。「真なる人間」に至る唯一の道は、キリストへの改心によって神に立ち帰ることであるので、彼女の思想においてタイ内外のキリスト教の諸派と積極的に対話し、共存するという意味におけるエキュメニズムはその中核を担う概念であると言える。エクメーネーを目指すために行われるアジア諸国のキリスト者とのエキュメニカルな関係性の構築は彼女にとって大きな関心事であるが、そのような交流を図ることのできる女性キリスト者は「普通の女性たち」ではなく、高学歴で英語が堪能で、場合によっては按手さえ受けているエリート女性たちであるということが指摘された。アラヤプラティープのエキュメニズムに対する強い確信の背景には、彼女が孤児であるだけでなく、若くして人々に嫌悪され、忌避される病を患ったことによって親戚にさえ棄てられた彼女が「祈りと信仰によって癒された」という直接的な改心体験がある。彼女にとって改心を通じて神に結ばれて「真なる人間」となることとは、通過儀礼のように一時的に経験すればよいという性質のものではなく、孤独と病に苦しんだ十代の頃から高齢者となるに至るまで、生涯を通じて希求すべきものであった。彼女の思想についてはタイ語、英語のいずれにおいても十分な先行研究が行われていないため、当該年度に実施した研究の成果は1980年代以降に本格化した「アジアの女性たちの神学」と呼ばれる試みのタイにおける展開を理解する上での新たな資料の提供につながった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地の神学校、教会の関係者などから本研究に対する理解と厚い協力を与えられたため、研究はおおむね順調に進展している。予算不足が原因でタイの女性キリスト者の代表者が集まる全国会議の開催が延期を重ねたため、当該年度はこれに参加することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は英語による資料の分析が完了したため、今後の文献研究(一次資料の分析)はタイ語による資料(アラヤプラティープ)を残すのみとなっている。当該年度での研究を通して見えてきたのは、按手の有無にとらわれず、牧師と信徒が協力して教会と社会のために奉仕するというタイの女性キリスト者たちの柔軟で行動的な態度である。そのため、今後の研究においては教会、神学校だけでなく、さまざまな場所で奉仕する女性キリスト者を多く訪問し、聞き取りを行いたい。
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Research Products
(2 results)